◆◆◆◆ 5-11 花冠 ◆◆◆◆
百萬華苑を過ぎてしばらく行くと、花畑があった。
見渡す限り一面、白い花で埋め尽くされている。
【 ホノカナ 】
「あ――こんなところも、あるんだ」
宮城の広大さに改めて感心していると、
【 ホノカナ 】
「……あれっ?」
この場に似つかわしくない人影を見つけた。
【 ???? 】
「うーん……んー……」
まだ年端のいかない少女である。
十歳になるかならぬか、といったところだろう。
花の冠を作ろうとしているようだが、なかなかうまくいかずにいる。
【 ホノカナ 】
(あの子……誰だろ?)
宮女にしては、いささか幼すぎるようだが……
【 ホノカナ 】
(あっ、もしかして……皇族の方じゃ?)
宮城内には、皇帝の一族も住んでいる。
しかし、これほどあどけない年頃の姫君がいるとは聞いたことがなかった。
それに貴人なら女官が侍っていそうなものだが、周囲には誰もいない。
【 ホノカナ 】
「あの……もしもし?」
通り過ぎてもよかったが、どうにも気にかかり、意を決して声をかけてみる。
【 少女 】
「んー? おまえ、だれー?」
【 ホノカナ 】
「あ……あの、なにか、お困りですか?」
【 少女 】
「花かんむり、うまくできなくてー」
あまり、手先が器用ではないようだ。
【 ホノカナ 】
「あの……よかったら、わたしが作りましょうか?」
【 少女 】
「ほんとー? アズミね、こう……かっこいいのがいいなー」
【 ホノカナ 】
「アズミさま……ですね、わたしはホノカナといいます」
そう応じつつ、記憶をたどってみるが……アズミ、という皇族に心当たりはなかった。
【 ホノカナ 】
(じゃあ、この子はいったい……?)
戸惑いつつも、ホノカナはてきぱきと花冠をこしらえていった。
【 アズミ 】
「へえー、ホノカナ、みかけによらず、じょうずだねー」
【 ホノカナ 】
「ど、どうも……はい、これでどうかな?」
煽られつつも、ホノカナは冠……というより武将の兜のようなシロモノを作ってみせた。
【 アズミ 】
「わー、かっこいいー。どうー? 〈煉・アズミ〉、ここにありー」
アズミは気に入ったようで、頭に載せてご満悦だ。
【 ホノカナ 】
「うんうん、似合ってるよ~」
昔は近所の子供たちと、こんなふうに遊んでいたものだっけ……と懐かしむホノカナ。
【 ホノカナ 】
「じゃあ、わたしはこれで……」
と、ホノカナが立ち上がろうとすると、
【 アズミ 】
「ホノカナ―、アズミ、たいくつー。なんとかしてー?」
【 ホノカナ 】
「ええ……?」
袖をつかまれて足止めされ、困惑するホノカナ。
強引に振りほどくわけにもいかず、どうしたものかと思案したが、
【 ホノカナ 】
(あっ……そうだ)
幸いにも、懐に例の書を忍ばせていた。
先日、奇妙な書肆で手に入れた――取り戻したというべきか――あの書物である。
【 ホノカナ 】
「じゃあ、お話、聞かせてあげる。それが終わったら、わたし、帰るね?」
【 アズミ 】
「んー、いいよー。おもしろかったら、ごほうびあげるしー。でも、つまらなかったら、おしおきー」
【 ホノカナ 】
「あ、あはは……」
ふたりは近くの木陰に足を運び、腰を下ろす。
【 ホノカナ 】
「えーと、アズミちゃんはどんなお話が好きかな?」
取り出した書物をめくりつつ、すっかりくだけた口調で尋ねるホノカナ。
【 アズミ 】
「んー、おもしろくて、ためになるのがいいなー。それでいて、ちょっとしたあそびごころがあるやつー」
【 ホノカナ 】
「む、難しいね……あ、これがいいかな? 『鱗公は三界を大いにさわがし、煌老師は智をもて世をおさめる』……」
【 ホノカナ 】
「むかしむかし――」
と、ホノカナは読み聞かせはじめた……
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