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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
66/421

◆◆◆◆ 5-11 花冠 ◆◆◆◆

 百萬華苑を過ぎてしばらく行くと、花畑があった。

 見渡す限り一面、白い花で埋め尽くされている。


【 ホノカナ 】

「あ――こんなところも、あるんだ」


 宮城の広大さに改めて感心していると、


【 ホノカナ 】

「……あれっ?」


 この場に似つかわしくない人影を見つけた。


【 ???? 】

「うーん……んー……」


 まだ年端のいかない少女である。

 十歳になるかならぬか、といったところだろう。

 花の冠を作ろうとしているようだが、なかなかうまくいかずにいる。


【 ホノカナ 】

(あの子……誰だろ?)


 宮女にしては、いささか幼すぎるようだが……


【 ホノカナ 】

(あっ、もしかして……皇族の方じゃ?)


 宮城内には、皇帝の一族も住んでいる。

 しかし、これほどあどけない年頃の姫君がいるとは聞いたことがなかった。

 それに貴人なら女官がはべっていそうなものだが、周囲には誰もいない。


【 ホノカナ 】

「あの……もしもし?」


 通り過ぎてもよかったが、どうにも気にかかり、意を決して声をかけてみる。


【 少女 】

「んー? おまえ、だれー?」


【 ホノカナ 】

「あ……あの、なにか、お困りですか?」


【 少女 】

「花かんむり、うまくできなくてー」


 あまり、手先が器用ではないようだ。


【 ホノカナ 】

「あの……よかったら、わたしが作りましょうか?」


【 少女 】

「ほんとー? アズミね、こう……かっこいいのがいいなー」


【 ホノカナ 】

「アズミさま……ですね、わたしはホノカナといいます」


 そう応じつつ、記憶をたどってみるが……アズミ、という皇族に心当たりはなかった。


【 ホノカナ 】

(じゃあ、この子はいったい……?)


 戸惑いつつも、ホノカナはてきぱきと花冠をこしらえていった。


【 アズミ 】

「へえー、ホノカナ、みかけによらず、じょうずだねー」


【 ホノカナ 】

「ど、どうも……はい、これでどうかな?」


 煽られつつも、ホノカナは冠……というより武将の兜のようなシロモノを作ってみせた。


【 アズミ 】

「わー、かっこいいー。どうー? 〈レン・アズミ〉、ここにありー」


 アズミは気に入ったようで、頭に載せてご満悦だ。


【 ホノカナ 】

「うんうん、似合ってるよ~」


 昔は近所の子供たちと、こんなふうに遊んでいたものだっけ……と懐かしむホノカナ。


【 ホノカナ 】

「じゃあ、わたしはこれで……」


 と、ホノカナが立ち上がろうとすると、


【 アズミ 】

「ホノカナ―、アズミ、たいくつー。なんとかしてー?」


【 ホノカナ 】

「ええ……?」


 袖をつかまれて足止めされ、困惑するホノカナ。

 強引に振りほどくわけにもいかず、どうしたものかと思案したが、


【 ホノカナ 】

(あっ……そうだ)


 幸いにも、懐に例の書を忍ばせていた。

 先日、奇妙な書肆で手に入れた――取り戻したというべきか――あの書物である。


【 ホノカナ 】

「じゃあ、お話、聞かせてあげる。それが終わったら、わたし、帰るね?」


【 アズミ 】

「んー、いいよー。おもしろかったら、ごほうびあげるしー。でも、つまらなかったら、おしおきー」


【 ホノカナ 】

「あ、あはは……」


 ふたりは近くの木陰に足を運び、腰を下ろす。


【 ホノカナ 】

「えーと、アズミちゃんはどんなお話が好きかな?」


 取り出した書物をめくりつつ、すっかりくだけた口調で尋ねるホノカナ。


【 アズミ 】

「んー、おもしろくて、ためになるのがいいなー。それでいて、ちょっとしたあそびごころがあるやつー」


【 ホノカナ 】

「む、難しいね……あ、これがいいかな? 『リン公は三界を大いにさわがし、コウ老師は智をもて世をおさめる』……」


【 ホノカナ 】

「むかしむかし――」


 と、ホノカナは読み聞かせはじめた……

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