◆◆◆◆ 5-7 密談 ◆◆◆◆
【 ミズキ 】
「――南征軍は岳東に達し、大過なく進軍中とのことです」
【 ヨスガ 】
「道中、徴発と称して略奪三昧を行っているのではあるまいな?」
夜の自室にて、ヨスガはミズキの報告を聞いていた。
【 ミズキ 】
「いえ、軍規すこぶる厳しく、民を寸毫も犯すことなし――と、報告にあります」
【 ヨスガ 】
「ほう……多少は割り引いても、大したものだな」
【 ランブ 】
「嶺将軍が率いているのですから、驚くには値しません」
【 ヨスガ 】
「しかし、軍のほとんどは練度の低い禁軍だぞ。限度があるのではないか?」
【 ランブ 】
「名将と呼ばれる者ならば、それすらも己の手足のごとく使いこなしてみせるものです」
【 ヨスガ 】
「ふむ……なるほどな。だが、いくら名将とて、腹が減ってはいくさはできまい?」
【 ミズキ 】
「糧秣に関しては、焦家が動いているようで……今のところ、不足はないとの由」
【 ヨスガ 】
「タイシンの采配か……しかし、十万の兵を養う兵糧の調達となれば、一苦労であろうな」
【 ミズキ 】
「むろん、たやすいことではないでしょうが……あの御仁に任せておけば、問題はないでしょう」
宙全土の物資の流通を牛耳る大商人である焦・タイシンならば、つつがなくやり遂げるに違いない。
【 ヨスガ 】
「ま、さしあたり、南方のことはいい。それより――」
【 ミズキ 】
「……宮中のこと、ですね」
【 ヨスガ 】
「うむ。……なにかしら、動きがありそうな気配を感じるのだ」
【 ミズキ 】
「太后、ないし十二賊の輩が、仕掛けてくると……?」
【 ヨスガ 】
「可能性はあるな」
【 ミズキ 】
「〈我影也〉の、報告ですか?」
【 ヨスガ 】
「いや、ただの勘だ。外れてくれるとありがたいが……あいにく、こういうときの勘はたいてい的中するからな」
【 ミズキ 】
「〈皇叔の変〉のときのように、ですか」
【 ヨスガ 】
「ふん、あれは勘もなにも関係ない。見え見えだったではないか。いつもあんな調子ならことは単純だが……そうもいくまいよ」
【 ミズキ 】
「……ええ。皇叔殿下と国母さまとでは、役者が違います」
【 ヨスガ 】
「ともあれ、こちらも打てる手は打っておくとしよう。宝玲山に使者を出す」
【 ミズキ 】
「では、いよいよ……」
【 ヨスガ 】
「そういうことだ」
不敵に微笑むヨスガだったが、ふと気づいたように、
【 ヨスガ 】
「……そういえば、ホノカナとセイレンはどうした?」
【 ミズキ 】
「藍老師なら、書肆に用があると出かけていますが」
*書肆……書店の意。
【 ヨスガ 】
「ホノカナも連れ出したのか? あの軍師気取りめ……! そもそも、こんな夜更けに店を開けている書肆があるのか?」
【 ミズキ 】
「さて……?」
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