◆◆◆◆ 5-6 遠見 ◆◆◆◆
帝国の南方に戦雲がたなびく頃、帝都である〈万寿世春〉においても、不穏な気配が立ち込めていた……
【 方士 】
「――南征軍は、さしたる問題もなく進軍しているとのことです」
夜、黄龍・シジョウは自室にて配下から報告を受けていた。
【 シジョウ 】
「ふむ……南の賊とぶつかるのは、まだ先か」
【 方士 】
「はっ、また新たな知らせが参りましたら、すぐに――」
【 シジョウ 】
「そうせよ。それで、西の陛下の様子はどうか?」
【 方士 】
「はっ……相も変わらず、日がな一日、歌舞音曲にかまけているようです」
【 シジョウ 】
「ほう……? すでに戦時だというのに、呑気なことだ」
【 方士 】
「は、百官の中にも、眉をひそめる者が少なくないとか……」
【 シジョウ 】
「ふむ……」
【 方士 】
「黄龍老師……?」
【 シジョウ 】
「――〈木偶〉を、いつでも動かせるようにしておけ」
【 方士 】
「っ! し、しかし、あれは――」
【 シジョウ 】
「なんだ?」
【 方士 】
「い、いえ、心得ましたっ……」
【 シジョウ 】
「うむ」
話は終わった、と言いたげに手を振るシジョウ。
方士は息を呑みつつ、そそくさと退室していった。
【 シジョウ 】
(皇帝陛下――か)
今上の天子、焔・ヨスガ。
東の陛下こと煌太后は、いまだ彼女を脅威とは見なしていないようだが……
シジョウの見解は、やや異なる。
彼とて、当初はただの小娘と侮っていた。
【 シジョウ 】
(〈皇叔の変〉の一件……あの娘が一枚噛んでいるのではないか?)
次期皇帝と見なされていたにもかかわらず、ヨスガに帝位をさらわれたのを恨み、謀反を企んだ皇叔タクマ。
その反乱は、あまりにも呆気なく鎮圧されてしまったため、タクマの不運がことさら取沙汰されもしたのだが……
【 シジョウ 】
(もしもあれが、あの娘の画策だとしたら――)
あの時――挙兵したタクマは、禁軍(近衛兵)の一部を率いて宮城に乗り込み、ヨスガの弑逆を図った。
*弑逆……君主を殺害するの意。
だが、“偶然にも”ヨスガは宮城を離れていたため、襲撃は空振りに終わったのである。
失敗を知ったタクマは城を脱出し、態勢を立て直そうとしたが、“運悪く”部下から離れて孤立したところを、あえなく討ち取られた……と、いうことになっている。
誰がタクマを討ったのか、などの詳細は定かでないが……
【 シジョウ 】
(……もしや、皇帝の差し金では?)
そんな疑念を抱くに至ったのは、
【 シジョウ 】
(あの娘……太后陛下に似ている)
そんな思いが、日に日に強くなってきているためにほかならない。
そう思って見ると、あの音楽狂いもこちらを油断させるための芝居ではないか? という気がしてくるのだ。
【 シジョウ 】
(今のうちに、面倒事の種は摘んでおかねばなるまい)
それが煌太后のためであり、ひいては己のためでもある。
【 シジョウ 】
(そろそろ、動きが起きるであろうから――な)
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