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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
61/421

◆◆◆◆ 5-6 遠見 ◆◆◆◆

 帝国の南方に戦雲がたなびく頃、帝都である〈万寿世春ばんじゅせいしゅん〉においても、不穏な気配が立ち込めていた……


【 方士 】

「――南征軍は、さしたる問題もなく進軍しているとのことです」


 夜、黄龍コウリュウ・シジョウは自室にて配下から報告を受けていた。


【 シジョウ 】

「ふむ……南の賊とぶつかるのは、まだ先か」


【 方士 】

「はっ、また新たな知らせが参りましたら、すぐに――」


【 シジョウ 】

「そうせよ。それで、西の陛下の様子はどうか?」


【 方士 】

「はっ……相も変わらず、日がな一日、歌舞音曲にかまけているようです」


【 シジョウ 】

「ほう……? すでに戦時だというのに、呑気なことだ」


【 方士 】

「は、百官の中にも、眉をひそめる者が少なくないとか……」


【 シジョウ 】

「ふむ……」


【 方士 】

「黄龍老師……?」


【 シジョウ 】

「――〈木偶でく〉を、いつでも動かせるようにしておけ」


【 方士 】

「っ! し、しかし、あれは――」


【 シジョウ 】

「なんだ?」


【 方士 】

「い、いえ、心得ましたっ……」


【 シジョウ 】

「うむ」


 話は終わった、と言いたげに手を振るシジョウ。

 方士は息を呑みつつ、そそくさと退室していった。


【 シジョウ 】

(皇帝陛下――か)


 今上の天子、エン・ヨスガ。

 東の陛下ことコウ太后は、いまだ彼女を脅威とは見なしていないようだが……

 シジョウの見解は、やや異なる。

 彼とて、当初はただの小娘と侮っていた。


【 シジョウ 】

(〈皇叔の変〉の一件……あの娘が一枚噛んでいるのではないか?)


 次期皇帝と見なされていたにもかかわらず、ヨスガに帝位をさらわれたのを恨み、謀反を企んだ皇叔タクマ。

 その反乱は、あまりにも呆気なく鎮圧されてしまったため、タクマの不運がことさら取沙汰されもしたのだが……


【 シジョウ 】

(もしもあれが、あの娘の画策だとしたら――)


 あの時――挙兵したタクマは、禁軍(近衛兵)の一部を率いて宮城に乗り込み、ヨスガの弑逆しいぎゃくを図った。

 *弑逆……君主を殺害するの意。


 だが、“偶然にも”ヨスガは宮城を離れていたため、襲撃は空振りに終わったのである。

 失敗を知ったタクマは城を脱出し、態勢を立て直そうとしたが、“運悪く”部下から離れて孤立したところを、あえなく討ち取られた……と、いうことになっている。

 誰がタクマを討ったのか、などの詳細は定かでないが……


【 シジョウ 】

(……もしや、皇帝の差し金では?)


 そんな疑念を抱くに至ったのは、


【 シジョウ 】

(あの娘……太后陛下に似ている)


 そんな思いが、日に日に強くなってきているためにほかならない。

 そう思って見ると、あの音楽狂いもこちらを油断させるための芝居ではないか? という気がしてくるのだ。


【 シジョウ 】

(今のうちに、面倒事の種は摘んでおかねばなるまい)


 それがコウ太后のためであり、ひいては己のためでもある。


【 シジョウ 】

(そろそろ、動きが起きるであろうから――な)

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