◆◆◆◆ 1-5 謁見 ◆◆◆◆
【 タイシン 】
「臣、焦、陛下にお目にかかれて恐悦至極――」
【 ヨスガ 】
「型にはまった挨拶はいらん。どうせ、〈東の陛下〉にも同じことを言ってきたばかりであろう?」
そう言い放ったのは、〈焔・ヨスガ〉――
すなわち、大宙帝国の第207代皇帝である。
西の離宮にある簡素な亭にて、床几に座りタイシンを見下ろしている。
【 タイシン 】
「話が早くて助かります。献上の品につきましては……」
【 ヨスガ 】
「細かいものはどうでもよい。例の品さえあればな」
【 タイシン 】
「は、ぬかりなく。東方の珍奇な楽器の数々、しっかりとそろえてまいりました」
【 ヨスガ 】
「ならばよい。さて、さっそく試してみなくてはの。ついてこい」
【 タイシン 】
「は、それはもちろん……ですが、その前に」
【 ヨスガ 】
「まだなにかあるのか? 我ははよう新しい楽器をかき鳴らしてみたくてたまらぬのだが」
【 タイシン 】
「頓首の限りにございます。実は、これなる娘を、宮女として召し抱えていただきたく――」
【 ヨスガ 】
「ふうん?」
皇帝は、タイシンの背後で、先ほど以上に縮こまっている娘を一瞥した。
ビクリと身震いしつつも、ホノカナは顔を上げることもできない。
【 ホノカナ 】
(なんて冷たいお声なんだろう)
先ほどの皇太后とはまるで異なる、氷の刃のような声音に圧され、ホノカナはすっかり萎縮していた。
まして相手が〈紅頬女帝〉とあればなおのことだ。
――新帝陛下は、血を好まれるとか。
――女官を殺して、その血を啜っているというぞ。
――おぞましや。……いよいよ、焔氏もおしまいか。
そんな噂話は、天下いたるところで耳にすることができた。
宮中の秘が、そうたやすく世に流布するはずもないが……
今のホノカナは、粗相をすれば首を斬られるかもしれない……という恐怖に身を固くするばかりだった。
【 ヨスガ 】
「……勝手に置いていくがよい。女官長が面倒を見るであろう。使いものになるならば、の話だがな」
【 タイシン 】
「は、かたじけなく――」
【 ヨスガ 】
「では、楽器の鳴らし方を指南せよ」
【 タイシン 】
「心得ました。それでは……」
タイシンは皇帝にならって立ち上がると、平伏しているホノカナに、
【 タイシン 】
「さて、これでひとまずお別れだ、小さいホノカナ。この先は、きみが自分ひとりでなんとかしなくてはいけない」
【 ホノカナ 】
「……は、はいっ、ありがとうございました、焦さん……! このご恩は、いつかきっと……!」
【 タイシン 】
「ああ、いつか返してくれる日がくると、信じているよ」
タイシンは強くうなずいてみせた。
【 タイシン 】
「――いつか、きっとね」
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