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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
57/421

◆◆◆◆ 5-2 女王アグラニカ ◆◆◆◆

 ウツセたちが案内されたのは、木造りのやしろ

 その奥に、森羅を治める女王の姿があった。


【 女王 】

「お初にお目文字つかまつる――わらわは〈たおやかなるアグラニカ〉、この地を統べる女王にございまする」

 *お目文字……お目にかかる、の意。


 女王アグラニカもまた、先ほどのヴァンドーラにも劣らぬ鍛えられた肢体を持ち、総身に鮮やかな刺青を入れていた。

 他の戦士たちと異なるのは、その腰まである長く艶やかな髪である。


【 ウツセ 】

「女王のご尊顔を拝し、まことに恐悦至極――」


 と、深々と一礼するウツセ。

 まだ困惑から抜け出ていないミナモも、慌てて頭を下げる。


【 ウツセ 】

「これなるは我が主、スイ閣下からの書状にございます。どうか、お改めのほどを――」


 と、ヤクモからの手紙を恭しく差し出す。

 従者がこれを手に取り、女王へと手渡した。


【 ミナモ 】

「(――ウツセ殿! これはいったいどういうことですのっ……!)」


 女王が書状に目を通している隙に、ミナモが咎めるように囁いた。


【 ウツセ 】

「(どういうこと、とは?)」


【 ミナモ 】

「(この者たちですわ! こんな野卑なやからが、どうしてこんな古めかしい言葉でしゃべりやがりますの? 違和感しかないったらありませんわ!)」


【 ウツセ 】

「…………」


 貴方がそれを言いますか……と内心でウツセは思いつつも、


【 ウツセ 】

「(……一説には、宙の古い物語がこの地に伝わっており、その影響でいにしえの言い回しが残っている……とされています)」


【 ミナモ 】

「(なるほど、そういうカラクリでしたの……! しょせんは借り物、わたくしの高貴な言葉とは比較にもなりませんわね!)」


【 ウツセ 】

「…………」


 なにやら満足そうなミナモに、ウツセはなにも告げはしなかった。

 彼女の上品さと物騒さが入り混じった喋り方は、父に従って幼い頃から戦場を駆けまわってきたゆえのことである。

 父・ヤクモは娘のために教師を雇って礼儀作法を学ばせたりもしたが、生来の気性もあってか、今のような調子になっているのだ。


【 ミナモ 】

「(――それはそうと、なにゆえ、みな女ばかりなのですっ? もしや、異族には男女の区別もありませんのっ?)」


【 ウツセ 】

「(道中あれこれ説明したはずですが……そもそも、森羅においては――)」


 などとヒソヒソと言葉を交わすうち、


【 アグラニカ 】

「――スイ公よりのふみ、拝見つかまつりました」


 女王が手紙を読み終えたのを見て、ウツセは居住まいを正す。


【 ウツセ 】

「戦火は、目と鼻の先に迫っております。貴国のご判断、いかに――」


【 アグラニカ 】

「――我らが、悪辣あくらつなる宙の支配より脱するに至ったは、ひとえにスイ公のお陰と存じておりまする」


【 アグラニカ 】

「なにより、かの軍の真の狙いがこの地にあるは、火を見るより明らか……なればどうして、助勢せぬ理由がございましょうや」


【 ウツセ 】

「おお、それでは――」


 と、ウツセが感謝を述べようとした矢先、


【 ヴァンドーラ 】

「――あいや、待たれよ!」


 ふいに声を上げたのは、脇に控えていたヴァンドーラであった。


【 ヴァンドーラ 】

「確かにスイ公に恩はござる。されど、遠路はるばる援兵を送るは百害あって一利なしと存ずる――」


【 ヴァンドーラ 】

「なんとなれば、しょせん宙の兵は弱兵にて、たとえいかなる大軍が押し寄せようとも、我らが守り神の加護があれば勝利は疑いなし――」


【 ミナモ 】

「むむむ……身勝手なことをっ! 父上の恩を忘れて自分たちだけ助かればいいとは、なんたる腐った性根っ!」


 ミナモは怒髪天を突き、今まさに飛びかからんばかりの勢い。


【 アグラニカ 】

「――双方、お引きなさい。さればヴァンドーラ、いかにすべしと?」


【 ヴァンドーラ 】

「もし仮に、我らが共に戦うに値する武勇のほどを示してくれるならば、がえんじましょう――どだい、無理ではありましょうが」


【 ミナモ 】

「はぁ? 笑止千万、へそで茶が沸きやがるというものですわ! いいでしょう、ならばわたくしの武、破廉恥なド田舎者どもにしかとお見せいたしましょうとも!」


【 ウツセ 】

「……よろしいのですね、陛下?」


【 アグラニカ 】

「これも我らが守り神の導きでありましょう――」


 かくして、援軍の可否をめぐり、ミナモとヴァンドーラが相打つこととなったのである。

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