◆◆◆◆ 4-17 出陣 ◆◆◆◆
【 グンム 】
「さる貴人――か」
酒席を辞したグンムとシュレイは、帰路についていた。
【 シュレイ 】
「どなたかは、確かめませんでしたが……その必要もありますまいな」
【 グンム 】
「ああ、知れたことだろ? あの国母さまが、あんなまわりくどい手を打つとは思えんね」
グンムの脳裏に、玉座にいた皇帝の姿が浮かぶ。
終始つまらなそうに振る舞っていた彼女だが、グンムが軍略を語るときだけは、耳を澄まし、内心でそれを批評しているかのようだった……
【 グンム 】
(……ま、気のせいかもしれんがな)
【 シュレイ 】
「我らは、試されていた……というところでしょうか」
【 グンム 】
「さてね。今のところ、権力は国母さまが握りづめにしてる。だが……」
【 シュレイ 】
「いつまでもそれが続くかといえば、定かではありませんな。いずれにせよ……」
【 グンム 】
「……勝って帰るしかない、か」
【 シュレイ 】
「将軍のお手並み次第でしょう」
【 グンム 】
「やれやれ……また戦塵にまみれる生活か」
【 シュレイ 】
「それが、貴方の持って生まれたさだめというものかと」
【 グンム 】
「ふん、さだめ、ねぇ……?」
どちらにしても、
【 グンム 】
「まあ、面倒なことは、さっさと片付けるしかねぇな――」
【 ヨスガ 】
「――大儀であったな、ふたりとも」
【 ランブ 】
「はっ――」
【 ホノカナ 】
「は、はいいっ……!」
宮城に戻ってほどなく、ホノカナはヨスガに呼び出されていた。
【 ヨスガ 】
「それで、どうだった?」
【 ホノカナ 】
「あっ……はい、嶺将軍がおっしゃるには……」
【 ヨスガ 】
「いや、詳しい話はいい。率直な印象を聞かせてもらおう」
【 ホノカナ 】
「えっ? あっ、ええとっ……」
【 ホノカナ 】
「その――けっこう、どこにでもいそうな人、って感じでした!」
【 ヨスガ 】
「ほほう……他には?」
【 ホノカナ 】
「えっと……よく気が利いて、親切な人だなぁ~って……」
【 ヨスガ 】
「ふむ……なるほどな」
【 ヨスガ 】
「よし、下がってよいぞ。子供は早う寝ろ」
【 ホノカナ 】
「ええっ? で、でも……」
【 ヨスガ 】
「いいから早く寝てしまえ! 明日も早いであろうがっ」
【 ホノカナ 】
「はっ、はいい……」
首をかしげながらも、ホノカナは出ていった。
【 ヨスガ 】
「やれやれ。手のかかる妹よな」
【 ランブ 】
「――それにしても、見事なお手前でした」
【 ヨスガ 】
「……なんだ、気づいておったのか? なるべく癖は消したつもりであったがな」
【 ランブ 】
「琴の音だけでは、さすがに確信は持てませんでしたが……」
【 ランブ 】
「ミズキ殿の美声を聞いては、間違えようもありますまい」
【 ミズキ 】
「……身に余るお言葉ですね」
ミズキが感謝を述べた。
そう、ヨスガと彼女はホノカナらの近くの席に陣取り、ひそかに聞き耳を立てていたのである。
【 ヨスガ 】
「グンムという男……簡単なようで、簡単でなさそうな……やりづらい相手とみえる」
【 ミズキ 】
「鏡のような人物ともいえましょう。見る側によって印象が変わるというべきか……」
【 ヨスガ 】
「……どこにでもいそう、か。それはそれで恐ろしいな」
凡人だから甘く見ていい、などという道理はない。
むしろ、歴史に残るような大事件というのは、どこにでもいるような平凡な人物の欲望や衝動から起きるものなのだ。
【 ミズキ 】
「どうなさるおつもりです?」
【 ヨスガ 】
「ふん、どのみち、我らの打つ手は変わらんさ」
【 ヨスガ 】
「この我が、この国の頂に立つ――そう、真の意味でな」
――大宙暦3133年(帝ヨスガ2年)、仲夏の月(5月)。
今まさに、天下を揺るがす大乱の幕が開こうとしていた――――
(つづく)
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