◆◆◆◆ 4-14 軍略 ◆◆◆◆
【 侍従 】
「――嶺・グンムを征南将軍に任ずる。宰相を補佐し、賊を討ち滅ぼすべし――」
【 グンム 】
「はっ……このグンム、身命を賭して賊を平らげ、天下を安寧へと導きましょう」
吉日晴天、グンムを将軍に任じる儀式がおこなわれた。
黄金で彩られた甲冑や剣を授けられ、官軍を預かることとなったグンム。
その数、実に十万……帝都の官軍の八割ほどに値する大軍である。
これを五十万の軍と号して、南方への遠征を託されたのだ。
【 グンム 】
(……あれが、今の皇帝陛下か)
グンムは玉座に腰を下ろした少女を見上げた。
皇帝ヨスガはつまらなそうに視線を外し、落ち着かない様子で身じろぎしている。
【 グンム 】
(歌舞音曲に溺れてるって話だが……)
グンムが皇帝を観察していると、御簾の向こうから声がかかった。
【 ランハ 】
「勝算はいかほどかしら、嶺将軍?」
【 グンム 】
「はっ――」
皇太后からの問いに、威儀を正す。
【 グンム 】
「もとより天兵の征くところ敵はございませんが、なにがあるかわからぬのが戦場というもの。しかし……」
【 グンム 】
「両陛下のご信任ある限り、このグンム、必ずや勝利をもたらす所存でございます」
【 ランハ 】
「まあ、頼もしいこと! ちなみに、凱旋した暁には、どんな褒美を所望かしら?」
【 グンム 】
「それは――ただただ、ほどほどの領地と褒賞を授かれば、それだけで身に余る光栄に存じます」
【 ランハ 】
「あら、相変わらず欲のないこと……それでこそ、篤実の嶺公ね」
【 グンム 】
「恐れ入ります」
【 シジョウ 】
「――後学のため、将軍にお尋ねしたい。いかにして兵を進め、南寇を討つおつもりか?」
そう問うたのはシジョウである。
グンムはチラリとそちらを見て、
【 グンム 】
「さて、それはあちらの出方次第ゆえ、なんとも言えませんが……正面からぶつかって損害を出すのは、避けたいところではありますな」
【 シジョウ 】
「では、どのように――?」
【 グンム 】
「まずは一戦し、相手の勢いを確かめたのち、おもむろに兵を割いて縦横に動かし、攪乱する――と、いったところでしょう」
【 シジョウ 】
「ふむ、そして?」
【 グンム 】
「これまた賊の動き次第ではありますが……“南方を封じて”、しかるのちに“東方を制する”――といったことになりましょう」
【 ランハ 】
「――ふふ、なるほどね! 期待しているわ、嶺将軍――」
【 グンム 】
「はっ――」
【 ヨスガ 】
「あのグンムとやら……食えぬ男だな」
儀式を終えた後、ヨスガはぽつりと呟いた。
【 ミズキ 】
「もともと、つかみどころのない御仁でしたが……ますます磨きがかかってきているようですね」
【 ホノカナ 】
「あの……どういうことなんですか?」
【 ヨスガ 】
「つまりだな、朝廷にとってはこのいくさ、勝ってほしいが、勝ちすぎてもらっても困る……ということだ」
【 ホノカナ 】
「えっ? でも、いくさなら、勝てばいいんじゃ……」
【 ヨスガ 】
「仮に烙宰相とグンムが、南寇に大勝し、滅亡させたとしよう。すると、どうなる?」
【 ホノカナ 】
「えっ、えっと……あっ!」
【 ヨスガ 】
「気づいたか」
【 ホノカナ 】
「その……前の二の舞になる、ってことですか?」
【 ヨスガ 】
「そういうことだ」
数年前、朝廷は翠・ヤクモに兵を与え、岳南の反乱を討たせた。
ヤクモはこれを鎮圧したが、いろいろあって自立し、南方に割拠する独立勢力となってしまっている。
【 ヨスガ 】
「ヤクモを討ったとしても、宰相たちが入れ替わってしまっては意味がない。そういう意味で、勝ちすぎはよろしくないわけだ」
【 ミズキ 】
「とはいえ、勝たなければ……」
【 ヨスガ 】
「そう、さしあたり、森羅くらいは手に入れたいところであろう。“南方を封じて”“東方を制する”というのは、森羅は支配下に置いても、それ以上の戦果は求めない、ということだな」
【 ホノカナ 】
「は、ははぁ……」
いくさなのに、勝ちすぎてはいけないなんて……と困惑を深めるホノカナ。
ミズキの講義を受けて、少しは兵法というものを学びはしたが……実際の戦争は奇々怪々のようだ。
【 ミズキ 】
「しかし、嶺将軍はそう察しているようですが、宰相はどうなのでしょう?」
【 ヨスガ 】
「むろん、わかっておるさ。耄碌していなければな。だが、あやつはわかったうえで、逆手に取る気かもしれぬ」
【 ミズキ 】
「では……自立を考えていると?」
【 ヨスガ 】
「ありえぬことではないな。グンムがそれに乗るかどうかはわからぬが……腹の読めぬ男ゆえな」
【 ランブ 】
「――嶺将軍に、お会いしてみますか」
【 ヨスガ 】
「ほう、ランブ、面識があるのか?」
【 ランブ 】
「はい。……将軍と父とは、旧知の仲でしたので」
【 ヨスガ 】
「ふむ……そうだったな」
【 ヨスガ 】
「しかし、こちらに呼び出すとなると、いろいろと面倒なことになりそうだ」
【 ランブ 】
「は。城外にて、ひそかに招かれるのがよろしいかと」
【 ヨスガ 】
「そうだな。では、ひとつ席を設けてもらうとするか」
【 ランブ 】
「承知いたしました」
【 ミズキ 】
「とはいえ、ヨスガさまが直接お会いするというのはさすがに……」
【 ヨスガ 】
「む……それならば……」
【 ミズキ 】
「そうですね……」
【 ホノカナ 】
「……えっ? ええっ?」
一同から視線を向けられ、ホノカナは嫌な予感を覚えた……
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