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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
51/421

◆◆◆◆ 4-13 宰相と将軍 ◆◆◆◆

【 レツドウ 】

「貴公が力を貸してくれるなら百人力だ。よろしく頼む」


【 グンム 】

「はっ、非才の身ではありますが、国家のため、閣下のために尽力いたしましょう」


【 レツドウ 】

「うむ、頼もしいかぎりである」


 ラク・レツドウは入京したレイ・グンムを自邸に招き、美酒を振る舞っていた。


【 レツドウ 】

「ときに……レイ将軍」


 ほどよく盃を重ねたところで、レツドウが声をひそめた。


【 レツドウ 】

「貴公は、昨今の世をどう思う?」


【 グンム 】

「さぁ、そう申されましても……人里離れた山中に閑居かんきょしておりましたので、当世の世情にはとんと疎い次第でございます」


【 レツドウ 】

「ふむ……ならば教えてしんぜるが、今、天下は国母さまとその取り巻きの方士どもが牛耳っておる」


【 グンム 】

「…………」


【 レツドウ 】

「彼等は天下国家のことなど知らぬ存ぜぬで、おのが栄華のためにのみ権勢をほしいままにし、奢侈しゃしに耽っておる。嘆かわしいとは思わぬか?」

 *奢侈……度を過ぎた贅沢の意。


【 グンム 】

「さて……私はいくさのことしか知らぬ野人なれば、さような雲上うんじょうのことはなんとも……」


【 レツドウ 】

「……そうか」


 レツドウは、しばし黙然としていたが、


【 レツドウ 】

「いや、酔ったせいか、つまらぬことを話したようだ。忘れてもらいたい」


【 グンム 】

「もとより、酒席のことを他言するほど無粋ではございません」


 グンムはそう応じつつも、


【 グンム 】

(こいつは、七面倒なことになりそうだな……)


 と、早くも不穏な気配を感じ取っていた。




【 シュレイ 】

「――ほう、さっそく匂わせてきましたか」


【 グンム 】

「冗談じゃねぇよ。気が早ぇにもほどがあるぜ」


 宿舎に戻ったヤクモは、シュレイと密談していた。


【 シュレイ 】

「このたびの南寇討伐、将軍はどう見ておいでで?」


【 グンム 】

「そりゃ、勝てるかどうかって話か?」


【 シュレイ 】

「もちろん、それも含みますが……ざっくりとした印象は?」


【 グンム 】

「ま、出稼ぎみたいなもんじゃねぇのか。国庫にカネがないもんだから、地方にタカリに行こうって腹だろ」


【 シュレイ 】

「身もフタもない物言いですが……恐らくそんなところでしょう。そうでなければ、皇太后が政敵である宰相に兵権を渡すはずがありません」


【 グンム 】

「しかし、そう言われると話がややこしいな」


 と、グンムは顎を撫でながら。


【 グンム 】

「本当にカネや物資が目的なら、自分の息がかかった大臣なりを派遣すりゃあいいんじゃないか?」


【 シュレイ 】

「それは確かにそうです」


【 シュレイ 】

「しかし、ありていにいって、手駒が不足しているのでしょう。それこそ甥っ子殿(コウ・レンス)では貫禄が足りませんし、ましてや……」


【 シュレイ 】

「……かの十二賊じゅうにぞくの輩に大軍を預ける気には、とてもなれないのでしょう」


【 グンム 】

「ふうん……」


 シュレイのいう十二賊とは、いわゆる十二佳仙を蔑んで呼ぶ表現である。

 ふだん沈着冷静な彼であるが、こと、かの方士集団に対しては嫌悪を隠さない。

 よほどの事情があるらしい……と察しつつ、グンムは理由を問いただしたりはしなかった。


【 シュレイ 】

「つまるところ、宰相ほどの存在でなければ、将軍を使いこなせない……という見立てなのでしょう。まさか、皇太后陛下がみずから兵を率いるわけにもいきませんし」


【 グンム 】

「ははぁん……俺も信用されてないってことか?」


【 シュレイ 】

「それはそうでしょう。いくら無欲をうたったところで、帝国の主力軍を預かるとなれば、異心を起こさぬ保証はありません」


【 グンム 】

「そりゃあそうだが……やれやれ、面倒なことになってきたな」


【 シュレイ 】

「面倒なのはそれだけではありますまい。将軍なら、このいくさの勝利条件はお分かりかと思いますが……」


【 グンム 】

「ま、朝廷からすりゃあ、スイ将軍を討つ……ってのは表向きで、本音は森羅を直轄領にすることだろうな」


【 シュレイ 】

「ご明察です。では、宰相にとっての勝利条件とは?」


【 グンム 】

「…………」


 さすがにグンムは即答せず、視線を泳がせた。


【 グンム 】

「要は、権勢を取り戻すってことだが……」


【 シュレイ 】

「そうですね。では、そのために一番手っ取り早い方法は?」


【 グンム 】

「そりゃあ――コレだろ」


 と、首を掻っ切るような身振りをしてみせる。


【 シュレイ 】

「――そう。邪魔者をすべて、排除することです」


【 シュレイ 】

「さぁ、貴方はどうなさいます、レイ将軍?」


【 グンム 】

「――――」


 シュレイの爛々(らんらん)とした眼差しに、グンムは狂気じみた気配を感じ取っていた――

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