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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
44/421

◆◆◆◆ 4-6 出兵 ◆◆◆◆

 翌朝の、朝議にて――

 宮城の金鳳殿に、文武百官がずらりと居並んでいる。

 そこへ皇帝ヨスガが姿を見せ、玉座につくと、官吏たちが一斉に拝跪はいきした。


【 侍従 】

「なにか申し上げることあらば、言上なさいませ。さもなくば、これにて閉廷といたします――」


 と、侍従の声があがるのを待ちわびたように歩み出たのは、


【 レツドウ 】

「臣、ラク、ご尊顔を拝し恐懼きょうくに堪えません――」


 宰相たるラク・レツドウであった。


【 ランハ 】

「あら――ずいぶんと久しいわね、宰相。もう病は癒えたのかしら?」


 ヨスガの背後から、御簾みす越しに皇太后ランハの声が響く。


【 レツドウ 】

「は、両陛下の御稜威みいつをもちまして、このとおり快癒いたしました。このうえは老躯ろうくに鞭打って、国家に尽くす所存にございます」


【 ランハ 】

「それはそれは、殊勝なこと……して、なにか朝議に挙げたいことがあるのかしら?」


【 レツドウ 】

「は、昨今、四方には盗賊どもがはびこり、人民を苦しめております。これらの逆賊を討ち、天下を泰平たらしめるのが宰相たる臣の務め……」


【 レツドウ 】

「中でも、南方の賊・スイなにがしとやらは、かつては帝国の禄をみながら凶賊となった悪の権化……」


【 レツドウ 】

「先年、御慈悲をもって赦免されたにもかかわらず、再三にわたって参朝をうながされても動かず、貢納も怠っているありさまです」


【 レツドウ 】

「なにとぞ、私に天兵てんぺいをお預けいただき、かの者を討伐させてくださいますよう――」


 レツドウの言に、ざわざわ……と、百官が騒然となる。


【 ランハ 】

「そう――人民の苦難を除くというのは、とても結構なことね! でも、さぁ、どうかしら?」


【 シジョウ 】

「おそれながら――」


 と進み出たのは、かの十二佳仙、黄龍コウリュウ・シジョウである。


【 シジョウ 】

「宰相閣下は天下を采配するにふさわしい御方ではございますが、いくさで功を立てたという話は聞きません」


【 シジョウ 】

「ここは、別の者に任せるのがよかろうと愚考いたしますが――」


【 レツドウ 】

「――シジョウ、そなたごときの出る幕ではあるまい。下がっておれ」


【 シジョウ 】

「これは失礼を……ただただ、国家のためを思ってのことでございますれば、なにとぞご容赦のほどを」


 苦々しい顔のレツドウに叱責され、しずしずと引っ込んでみせる。


【 レツドウ 】

「されば両陛下、なにとぞ――」


【 官吏 】

「――あいや、しばらくしばらく!」


 と、続いて歩み出てきたのは、若年の男である。


【 官吏 】

「悪名高き〈南寇〉めの悪事は天下周知の事実! ここは宰相閣下の手をわずらわせるまでもありません。この私めがその大任、お請けいたしましょうとも!」


【 レツドウ 】

「む……」


 レツドウは眉をひそめたが、シジョウのときのように咎めはしなかった。

 なんとなればその男は、


【 ランハ 】

「レンス――お下がりなさい。お前では役者が足りませんよ」


【 レンス 】

「ですが、叔母上――いえ、国母さま! ひどい話ではありませんか! 病み上がりの宰相閣下を瘴癘しょうれいの地へ派遣するなどっ……あまりにもっ……!」

 *瘴癘の地……熱病などがはびこる危険な土地。


 などと、泣き出さんばかりの芝居がかった振る舞いを見せるこの男は、コウ・レンス……すなわち皇太后ランハの甥である。

 まだ若いが、なにせ国母たる叔母の数少ない身内とあって、立身を重ね、秘書官として百官の列に加わっている。


【 ランハ 】

「それはそうね。でも、宰相は覚悟を決めて言上しているのよ。そうでしょう?」


【 レツドウ 】

「はっ……もとより、戦地にて倒れるもやむなしの覚悟でございますれば」


【 レンス 】

「おお……! なんとお見事なお心がけにございましょうや! このコウ・レンス、はなはだ感服いたしましたっ……!」


【 レツドウ 】

「――なるほど確かに、私にはいくさの経験は不足しており、またコウ秘書官の言葉通り、老体にして多病であります」


【 レツドウ 】

「それゆえ、お許しいただけるならば、ひとりの武人を招き、副将としたく存じます」


【 ランハ 】

「その武人というのは?」


【 レツドウ 】

さきの征東将軍、レイ・グンムにございます」


 おお――と官僚たちがどよめく。


【 ランハ 】

「まぁ、グンムなら安心ね! でも、彼はもう引退したのではなかったかしら?」


【 レツドウ 】

「おっしゃる通りです。しかし、まだまだ年若く壮健な身ゆえ、天下国家のためと口説けば、きっと出馬してまいりましょう」


【 ランハ 】

「なるほど――ね。陛下は、どうお考えでしょうか?」


 と、ランハがこれまで一言も言葉を発していないヨスガに問う。


【 ヨスガ 】

「――――国母さまの存念に従いましょう」


 淡々とした口調で、それだけを告げる。


【 ランハ 】

「わかりました。ではさっそく、グンムに使いを出しましょう」


【 ランハ 】

ラク宰相を助け、南寇を討つべし――とね」


【 レツドウ 】

「はっ、かたじけなく――」


 深々と一礼するレツドウ。

 かくしてここに、帝国軍による南征の兵が起こされることが決されたのである。

 それは、宙帝国全土を巻き込む大乱の、最初の一歩であった――

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