◆◆◆◆ 4-4 布石 ◆◆◆◆
【 ヨスガ 】
「――ええいっ! あの女狐め……やってくれるっ!!」
皇太后との茶会を終え、自室に戻ってきたヨスガは、憤懣やるかたない様子だった。
*憤懣やるかたない……怒りが収まらない様子。
【 ミズキ 】
「……よもや、ホノカナのことをあそこまで把握されているとは……予想外でした」
【 ヨスガ 】
「ふん、驚くほどのことではあるまい。我に仕える宮女たちの中にも、あの御仁の息がかかっている者は少なくなかろうよ」
ひとしきり怒りをぶつけると、ヨスガはすでに冷静さを取り戻していた。
【 ミズキ 】
「それらしき者を洗い出しますか?」
【 ヨスガ 】
「やめておけ。見つけて追い出したところで、どうせまた別の者を送り込まれるだけのことゆえな」
【 ホノカナ 】
「す、すみませんでした、わたしっ、なにも言えなくてっ――」
申し訳なさそうに詫びるホノカナ。
【 ヨスガ 】
「謝るな。先ほどの件は我が悪い。そなたを連れて行ったのは悪手だった」
素直に失策を認めるヨスガ。
【 ヨスガ 】
「いや、しかし、それほど悪い手でもなかったな」
【 ホノカナ 】
「……と、いうと?」
【 ヨスガ 】
「これはこれで、のちのち生きるかもしれぬ。良くも悪くも、皇太后陛下はそなたのことを認識したのだからな」
【 ホノカナ 】
「は、ははぁ……?」
【 ヨスガ 】
「これが布石ともなろう。妖狐め、後で目にもの見せてくれる……!」
【 ホノカナ 】
(……よかった、お元気そうで)
転んでもただでは起きないヨスガの姿に、安堵を覚えるホノカナだった。
【 ヨスガ 】
「ああ、それと――」
【 ホノカナ 】
「はい?」
【 ヨスガ 】
「先ほど、欲しければ献上しましょう、煮るなり焼くなりなんなりと……などといろいろ言ったが……」
【 ヨスガ 】
「あれは方便である。真に受けるでないぞ」
と、ヨスガは少し言い訳じみたことを口にする。
【 ホノカナ 】
「あっ……はい! それはわかってました。だって、ヨスガ姉さまにはわたしが必要なので!」
顔をほころばせるホノカナ。
【 ヨスガ 】
「……はぁっ? 調子に乗るでないわ!」
【 ホノカナ 】
「ええっ!?」
【 ヨスガ 】
「利いた風な口を叩くでないぞ、このへなちょこ妹めが~~っ!」
【 ホノカナ 】
「ひゃはぁんっ!? そ、そんなところ、くすぐらないでくださいぃ~!?」
【 ミズキ 】
「…………」
じゃれ合う少女たちを横目に眺めつつ、ミズキは思案していた。
【 ミズキ 】
(それにしても、あの御方のこと……ただの戯れとも思えないけれど)
皇帝の周辺にも己の目が届いていることを示し、やんわりと威圧した――と、いったところだろうか。
【 ミズキ 】
(しかし、それだけかどうか――)
なにか、別の思惑があったのではなかろうか……?
【 ヨスガ 】
「ほれほれ、小生意気な妹はここが弱かろうっ?」
【 ホノカナ 】
「えっ? あっ、そ、それ、くすぐった……きゃひぃん!?」
【 ミズキ 】
「…………」
それはさておき、そろそろ止めねばなるまい、とミズキは思った。
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