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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
411/421

◆◆◆◆ 10-3 主と客 ◆◆◆◆

【 グンム 】

「ところでガク老師せんせい――ひとつ、提案があるんだが」


 そろそろシュレイがいとまを告げようとしたとき、グンムが思い出したように切り出した。


【 シュレイ 】

「と、申されますと?」


【 グンム 】

「なに、貴公の働きに報いなきゃなるまい、と思ってな」


【 グンム 】

「そろそろ、官職に就いてはどうだ?」


 さらりと告げる。


【 シュレイ 】

「それは――」


【 グンム 】

「まあ、さすがにいきなり尚書令しょうしょれいとはいかんが、秘書官や侍中じちゅうくらいなら問題ないだろう。どうかな?」

 *尚書令、秘書官、侍中……宙帝国の官職。この中では尚書令が一番格上にあたる。


【 シュレイ 】

「は――たいへん、ありがたい仰せですが――」


 グンムの申し出に、シュレイは言葉を濁す。


【 グンム 】

「気が乗らないか? 確固たる地位があった方が、いろいろとやりやすいことも多かろうに。いつまでも俺の客分のままでは、不便ではないか?」


【 シュレイ 】

「それはそうですが……反面、身軽な立場の方が、なにかと便利でもありますので」


【 シュレイ 】

「今のところは、一介の布衣ほいであった方が、閣下のお力になれるかと――」

 *布衣……無官の庶民の意。


【 グンム 】

「ふむ……そうか」


 グンムは、気を悪くしたふうもなく。


【 グンム 】

「ま、無理強いする気はない。気が変わったら、いつでも申し出てくれ」


【 シュレイ 】

「はっ……」


 シュレイは、深々と一礼した。




【 シュレイ 】

「……ふぅ……」


 グンムの執務室を退出したシュレイは、大きく息をついた。


【 シュレイ 】

(……やはり、食えない男だ)


 あらためて、そう感じる。


【 シュレイ 】

(私を部下として扱いたい――と、いうところか?)


 今のところ、グンムとシュレイは主と客ではあっても、君と臣というわけではない。

 その関係は、ほぼ対等といっていいものである。

 それゆえ、これまでは忌憚きたんのない意見も言えたが……官職を得たら、そうもいかない。

 *忌憚……遠慮の意。


 どちらも宙王朝の臣下同士……といっても、おのずと序列は明確になってしまうだろう。


【 シュレイ 】

(私を、煙たがっているようだな)


 そう察するのは、容易だった。

 便利な駒ではあるにせよ、先生扱いして気を遣わねばならないというところが、扱いづらいのかもしれない。


【 シュレイ 】

(……まあ、是非もないことだ)


 シュレイは、佞臣ねいしんになるつもりはない。

 *佞臣……奸悪な家臣の意。


 お互いに言うべきことは言い、時には対立することもあるのが、正常な人間関係というものであろう。


【 シュレイ 】

(今は、牽制ていどではあるが……)


 いずれは、さらなる圧力をかけてくるかもしれない。

 そうなれば、また考えなくてはならぬだろう。


【 シュレイ 】

(……まだまだ、やるべきことは、数多い)


【 シュレイ 】

(いたずらに逸らず、慎重にかからねば……な)


 シュレイは己に言い聞かせながら、グンムの邸を後にしたのだった。

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