◆◆◆◆ 9-105 鶴風の戦い(54) ◆◆◆◆
【 ゼンキョク 】
「今こそ、わが職務を――」
火の粉が届くほどの距離に達したところで、落花鬼手ことゼンキョクは一歩踏み出す。
【 タシギの成れの果て 】
『アッ……ガァッ……アアアァッ……!』
【 ゼンキョク 】
「――果たしましょう」
――――スッ。
手にした処刑刀を、一閃して。
【 タシギの成れの果て 】
『…………ッ!』
――ふわり。
花が、落ちるかのように。
音もなく、首が胴から離れていた。
【 ゼンキョク 】
「――執行、つつがなく」
その無機質な声が、かの者の耳に届いたか、どうか。
……………………
…………
【 タシギ 】
(…………)
【 タシギ 】
(…………っ? こ……ここ……は……)
タシギは、見知らぬ場所に横たわっていた。
そこは、どこまでも虚ろな、なにもない空間。
先ほどまで己の身を苛んでいた熱さや苦痛は、もはや感じない。
【 タシギ 】
(アタシは……死んだ、のかッ? ここ……が……冥府って、ヤツかッ……?)
周囲を見渡そうにも、指一本すらも動かせない。
【 タシギ 】
(……クソッ……クソがッ……こんな……こんなところでッ……このアタシが、終わり……なのかよッ……!)
【 タシギ 】
(まだ、殺せたッ……もっともっと、アタシはッ……思うままに、殺せたのにッ……!!)
【 ???? 】
「――――」
ふと、視界になにか光るものが映った。
【 タシギ 】
(…………!)
【 光輝く存在 】
「――罪深き、者よ――」
澄んだ声が、耳に入る。
【 タシギ 】
「な……なんだッ……てめェ……はッ……」
かろうじて、声を絞り出す。
【 光輝く存在 】
「――私は、冥府の門番……貴方の罪を裁き、死後の罰を与える者――」
【 タシギ 】
「罰……だとッ……?」
【 冥府の門番 】
「――そう……貴方は、多くの人を殺めました――そう、とても、多くの人々を――」
【 冥府の門番 】
「――その罪は、償わねばなりません――」
【 タシギ 】
「…………ッ、どんな罰をッ……与えるって、いうんだッ……」
【 冥府の門番 】
「――貴方はこれより、地の底の、そのまた底……血に飢えた悪鬼どもがうごめく、冥府魔道へと落ちるのです――」
【 タシギ 】
「――――っ」
【 冥府の門番 】
「――そこで貴方は、終わりなき殺し合いを続けねばなりません……死んでもすぐに生き返り、休むことは許されず、戦鬼どもと不毛な戦いを繰り返すのです……そう、ざっと千年ほどは――」
【 タシギ 】
「…………ッ」
【 冥府の門番 】
「――いささか、酷にすぎる罰かもしれませんが、これも魂を浄化するための禊で――」
【 タシギ 】
「……ク……ククッ……ハハハッ! アッハハハッ!」
【 冥府の門番 】
「――――?」
【 タシギ 】
「永遠の殺し合い……だって? 最高じゃアないかッ! いくら殺したっていいんだろうッ? 極上だぜッ……!」
【 タシギ 】
「さァ、さっさと落としやがれッ……! 思う存分、殺して、殺して、殺しまくってやるよッ……!!」
【 冥府の門番 】
「…………」
【 冥府の門番 】
「――ケタッ……ケタ、ケタケタッ……」
【 タシギ 】
「――――っ?」
突然、異様な笑い声をあげはじめた門番に、当惑する。
【 冥府の門番? 】
「面白い……思った以上に、とち狂ってやがるじゃあないか……ケタケタケタッ!」
【 タシギ 】
「てめェ――はッ――」
輝いていた影が、ふいに、その姿を変貌させる。
ばさりと翼を広げたのは、角の生えた異形の女――
【 角と翼を持つ女 】
「キロロッ……あたしは死神! 人呼んで催命翔鬼――」
【 催命翔鬼 】
「魂を冥府に運ぶのが仕事なんだけど――こんなイカれ果てた魂、浄めるなんてもったいないからさぁ!」
【 タシギ 】
「…………ッ」
【 催命翔鬼 】
「その救いようのないドグサレ魂、あたしが美味しく喰らってやるよっ! ケ~タケタケタァッッ!!」
高笑いしながら、催命翔鬼はタシギに飛びかかり――
【 タシギ 】
「…………ッ!?」
ガブッ! バクッ! ムシャアアァッ……!
【 タシギ 】
「ぎゃアアッ!? ぐがッ、ぎぃアアアアッ!? がッァァアアアアッ!!」
肉を引き裂かれ、腸を引きずり出されて。
生きたまま貪り食われるという、想像を絶する苦痛を味わわされ、つんざくような絶叫がほとばしる。
【 催命翔鬼 】
「キロロッ……安心しなよっ、たっぷり堪能して、あたしの血と肉にしてやるからさぁ~っ! ムシャ……モグモグ……ゴキュッ……ズズゥ~~ッ……」
【 タシギ 】
「がッ……アッ……アアァッ……アアアアアアァァァァァ――――ッッ!!」
銀・タシギの断末魔の悲鳴は、誰に聞かれることもなく、現世と黄泉の狭間に消えていったのだった――
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