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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
404/421

◆◆◆◆ 9-104 鶴風の戦い(53) ◆◆◆◆

【 タシギの成れの果て 】

『ガッ……ア……アッ……てめッ……エェェッ……!』


 全身を炎で焼き尽くされつつ、人ならざる身と化したタシギは、なおも生きている。


【 タシギの成れの果て 】

『ウグッ……グッ……熱ッ……グウッ、ア……アアッ……!!』


 その身は燃えながらも、なまじ生命力が強いだけに死ぬこともできず、苦悶し続ける――

 凄惨きわまりない有り様であった。


【 ヨスガ 】

「ここまでだな――ギン司馬」


【 タシギの成れの果て 】

『……グッ……グウウウッ……!!』


【 ヨスガ 】

「もし、早く楽になりたいならば――」


 ヨスガが右手を広げ、炎に包まれた妖人ようじんへと向ける。


【 ヨスガ 】

「我が慈悲をもって、そなたに『終わり』をくれてやろう。いかに――?」


【 タシギの成れの果て 】

『ふ――ふざける……なアアアァッ! ア……アタシッ……アタシ、はァッ……!』


【 タシギの成れの果て 】

『誰にもッ……屈しは……しないッ……同情……などッ……要らぬゥッ……!』


【 ヨスガ 】

「そうか――大した気概だ」


【 ヨスガ 】

「ならば、その意気に応えようぞ――〈落花鬼手らっかきしゅ〉!」


 ヨスガが指を鳴らすと同時に、暗がりの中から、ゆらりと人影が歩み出てきた。


【 黒づくめの人影 】

「――――」


【 宝玲山の将兵 】

『……うっ……!』


 その姿に、将兵が一斉に身をすくめる。

 仮面で顔を覆い、漆黒の衣を身につけた長身の人物。

 手には、鬼頭きとう刀……すなわち処刑用の刀が握られている。


【 無頼漢 】

「ひっ……!?」


 とりわけ怯えているのは、先日、罪を犯して処刑寸前となった無頼漢たちだった。

 あのとき、彼らを斬るべく現れたのが、この黒衣の死刑執行人に他ならない。


【 ヨスガ 】

ちゅう王朝、第207代皇帝たるエン・ヨスガが命じる――」


【 ヨスガ 】

「落花鬼手よ、今こそ職務を果たせ!」


【 落花鬼手 】

「――は。承知、つかまつりました」


 ヨスガの指令に応じ、ゆっくりと歩み出す。


【 タシギの成れの果て 】

『……ッ! その……声ッ……!』


 炎に巻かれ悶絶しながらも、タシギだったものは憎悪に満ちた声を放つ。


【 タシギの成れの果て 】

『てッ……てめえェッ……あの、ヤブ医者ッ……かァアアアァッ!』


【 ランブ 】

「…………! そう、かっ……あの姿っ……アン老師せんせいか……!」


 出血で朦朧となりつつも、ランブは悟る。


【 ゼンキョク 】

「――――」


 そう、落花鬼手とは、〈救神双手きゅうしんそうしゅ〉たる医師〈アン・ゼンキョク〉のもう一つの異名……

 否、真の名ともいうべきものであった。




 アン・ゼンキョクの本業は、刑吏けいり――すなわち、罪人を尋問し、刑が定まれば処刑する役目である。

 拷問でたやすく死なれては困るので、刑吏は医術も学び、生かさず殺さずの状態で咎人とがびとを責め続けるのだ。

 ゼンキョクが身に着けた医療のわざは、いわば数々の罪人を責めさいなんできた副産物といっていい。


【 タシギの成れの果て 】

『てめェのッ……せい……でッ……アタシ……はァアアッ……!』


 憤怒ふんぬに身をよじり、獣めいた声で吠え猛る。

 先日、ゼンキョクのはりで左眼を失ったことが、彼女をここに至らせたのだと思えば、その憎悪も不思議ではない。


【 ゼンキョク 】

「…………」


 ゼンキョクは無言で、刀を構える。


【 ランブ 】

(――やれる、のか?)


 敵意を持って斬りつければ、その身に跳ね返るのみ。

 だが、それと知ったうえで、ヨスガが命じたからには――


【 タシギの成れの果て 】

『殺し、てッ……やるッ……殺すウウゥゥゥッ……!』


 身を焼きながら、にじり寄っていく。


【 ゼンキョク 】

「…………」


 ゼンキョクは反応せず、ただ、鬼頭刀を構えている。


【 タシギの成れの果て 】

『死ッ……ねッ……! てめェ……もッ……道連れ……だァァッ……!!』


【 ゼンキョク 】

勅命ちょくめいにより、司馬、ギン・タシギを、ここに斬罪ざんざいに処す――」


【 タシギの成れの果て 】

『ガアッ……アアアァッ……!』


 絶叫とともに、炎上するタシギの成れの果てが飛びかかる――

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