◆◆◆◆ 9-104 鶴風の戦い(53) ◆◆◆◆
【 タシギの成れの果て 】
『ガッ……ア……アッ……てめッ……エェェッ……!』
全身を炎で焼き尽くされつつ、人ならざる身と化したタシギは、なおも生きている。
【 タシギの成れの果て 】
『ウグッ……グッ……熱ッ……グウッ、ア……アアッ……!!』
その身は燃えながらも、なまじ生命力が強いだけに死ぬこともできず、苦悶し続ける――
凄惨きわまりない有り様であった。
【 ヨスガ 】
「ここまでだな――銀司馬」
【 タシギの成れの果て 】
『……グッ……グウウウッ……!!』
【 ヨスガ 】
「もし、早く楽になりたいならば――」
ヨスガが右手を広げ、炎に包まれた妖人へと向ける。
【 ヨスガ 】
「我が慈悲をもって、そなたに『終わり』をくれてやろう。いかに――?」
【 タシギの成れの果て 】
『ふ――ふざける……なアアアァッ! ア……アタシッ……アタシ、はァッ……!』
【 タシギの成れの果て 】
『誰にもッ……屈しは……しないッ……同情……などッ……要らぬゥッ……!』
【 ヨスガ 】
「そうか――大した気概だ」
【 ヨスガ 】
「ならば、その意気に応えようぞ――〈落花鬼手〉!」
ヨスガが指を鳴らすと同時に、暗がりの中から、ゆらりと人影が歩み出てきた。
【 黒づくめの人影 】
「――――」
【 宝玲山の将兵 】
『……うっ……!』
その姿に、将兵が一斉に身をすくめる。
仮面で顔を覆い、漆黒の衣を身につけた長身の人物。
手には、鬼頭刀……すなわち処刑用の刀が握られている。
【 無頼漢 】
「ひっ……!?」
とりわけ怯えているのは、先日、罪を犯して処刑寸前となった無頼漢たちだった。
あのとき、彼らを斬るべく現れたのが、この黒衣の死刑執行人に他ならない。
【 ヨスガ 】
「宙王朝、第207代皇帝たる焔・ヨスガが命じる――」
【 ヨスガ 】
「落花鬼手よ、今こそ職務を果たせ!」
【 落花鬼手 】
「――は。承知、つかまつりました」
ヨスガの指令に応じ、ゆっくりと歩み出す。
【 タシギの成れの果て 】
『……ッ! その……声ッ……!』
炎に巻かれ悶絶しながらも、タシギだったものは憎悪に満ちた声を放つ。
【 タシギの成れの果て 】
『てッ……てめえェッ……あの、ヤブ医者ッ……かァアアアァッ!』
【 ランブ 】
「…………! そう、かっ……あの姿っ……晏老師か……!」
出血で朦朧となりつつも、ランブは悟る。
【 ゼンキョク 】
「――――」
そう、落花鬼手とは、〈救神双手〉たる医師〈晏・ゼンキョク〉のもう一つの異名……
否、真の名ともいうべきものであった。
晏・ゼンキョクの本業は、刑吏――すなわち、罪人を尋問し、刑が定まれば処刑する役目である。
拷問でたやすく死なれては困るので、刑吏は医術も学び、生かさず殺さずの状態で咎人を責め続けるのだ。
ゼンキョクが身に着けた医療のわざは、いわば数々の罪人を責め苛んできた副産物といっていい。
【 タシギの成れの果て 】
『てめェのッ……せい……でッ……アタシ……はァアアッ……!』
憤怒に身をよじり、獣めいた声で吠え猛る。
先日、ゼンキョクの鍼で左眼を失ったことが、彼女をここに至らせたのだと思えば、その憎悪も不思議ではない。
【 ゼンキョク 】
「…………」
ゼンキョクは無言で、刀を構える。
【 ランブ 】
(――やれる、のか?)
敵意を持って斬りつければ、その身に跳ね返るのみ。
だが、それと知ったうえで、ヨスガが命じたからには――
【 タシギの成れの果て 】
『殺し、てッ……やるッ……殺すウウゥゥゥッ……!』
身を焼きながら、にじり寄っていく。
【 ゼンキョク 】
「…………」
ゼンキョクは反応せず、ただ、鬼頭刀を構えている。
【 タシギの成れの果て 】
『死ッ……ねッ……! てめェ……もッ……道連れ……だァァッ……!!』
【 ゼンキョク 】
「勅命により、司馬、銀・タシギを、ここに斬罪に処す――」
【 タシギの成れの果て 】
『ガアッ……アアアァッ……!』
絶叫とともに、炎上するタシギの成れの果てが飛びかかる――
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