◆◆◆◆ 9-103 鶴風の戦い(52) ◆◆◆◆
【 ランブ 】
「――っ! 陛下……!」
【 タシギの成れの果て 】
『出てきたかッ……クソ天子ッ……!』
【 ヨスガ 】
「銀司馬か――ずいぶんと、あさましい姿になり果てたものだな」
洞窟の奥から姿を見せたヨスガが、変わり果てたタシギの姿を見て、眉をひそめる。
【 タシギの成れの果て 】
『あァ、てめェを……てめェらを……ブチ殺すためになッ……!』
【 ミズキ 】
「ヨスガさま――お下がりください」
ミズキが、ヨスガを守るように前に出る。
【 タシギの成れの果て 】
『てめェもいたか、紅雪華ッ……!』
【 ミズキ 】
「あの状況からさらに生き返るとは……呆れた生命力ですね。それとも、誰かの差し金ですか?」
【 タシギの成れの果て 】
『四の五の、ゴチャゴチャとッ……オオッ……オオオッ!』
咆哮とともに、妖人の肢体が唸る。
【 ギョクレン 】
「ぐっ……! あ、あまり長い間はっ、封じていられないのでございますっ……!」
ギョクレンが息を切らしている。
かなり消耗しているらしい。
【 ランブ 】
「陛下っ……今のうちに、脱出をっ……!」
【 ヨスガ 】
「そうはいかぬ。我は、逃げるときは恥も外聞もなく逃げるが……今は、そのときではないゆえな」
【 ヨスガ 】
「ミズキ、空刀で斬れるか?」
【 ミズキ 】
「さぁ、私も、邪念を捨てる自信はありませんが――」
【 ミズキ 】
「――しかし、やってみるとしましょう」
一礼して、ミズキが異形のタシギと対峙する。
【 タシギの成れの果て 】
『…………ッ!』
【 ミズキ 】
「――今度こそ、ケリをつけさせてもらいます」
【 タシギの成れの果て 】
『抜かせェ……ッ!』
【 ギョクレン 】
「も……もう、限界で……ございますっ!」
【 タシギの成れの果て 】
『死ねェッ!』
――ドォンッ!
ギョクレンの術が解けた瞬間、怒りに任せて、ミズキに襲いかかっていく。
【 ミズキ 】
「――――っ」
両手、両足、さらに背中から生えた腕――といった人ならざる猛攻を、かろうじて躱していく。
【 タシギの成れの果て 】
『ちいいッ、ちょこまかとォッ!』
【 ミズキ 】
「図体が大きくなったせいで、キレがなくなったようですね」
【 タシギの成れの果て 】
『ほざきやがれッ……!』
【 ミズキ 】
「――――っ」
大きく、深呼吸する。
燃拳豪仙に指摘されたように、無駄な力を抜き、脱力する。
【 ミズキ 】
「今こそ、お見せしましょう――」
【 ミズキ 】
「――わが、明鏡止水の、境地を」
*明鏡止水……曇りのない鏡、静止した水のごとく、心に邪念がなく澄み切った状態の意。
立ち止まり、目を閉じる。
今こそ、その心、無に至る――
【 タシギの成れの果て 】
『はァアアッ? 面白ェ……やれるものならッ、やってみろオッ!』
【 ミズキ 】
「――――っ」
棒立ちになったミズキへ、妖異ミズキの爪が、牙が迫る――
【 ミズキ 】
「――と、思いましたが」
【 タシギの成れの果て 】
『――――ッ?』
【 ミズキ 】
「やはり、無理ですね」
――カチッ。
【 タシギの成れの果て 】
『……なッ!?』
――ドオオオオォンッ!!
【 タシギの成れの果て 】
『ぐッッがァあああァァァァッ!?』
轟音とともに異形の足元から爆炎が立ち昇り、その身を包み込む――
【 エキセン 】
「クク……お見事っ……!」
明鏡止水がどうこうと語るかたわら、エキセンから預かった爆薬を地面に仕掛けておいたのである。
【 ミズキ 】
「爆薬には――」
燃えさかる元タシギを眺めながら、ミズキは汗ばんだ髪をかき上げる。
【 ミズキ 】
「――怨みも憎しみも、ありませんので」
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