◆◆◆◆ 9-102 鶴風の戦い(51) ◆◆◆◆
――ドガァアッ!!
【 タシギの成れの果て 】
『ぐうッ!?』
【 ランブ 】
「――――っ?」
突然、化生の者が声をあげて、背後に飛びすさった。
【 タシギの成れの果て 】
『なんだッ……てめェ、その、左手はッ……!?』
【 ランブ 】
「……っ、これはっ……」
無意識のままに、彼女の僵尸化した左手が拳を握り、土手っ腹に一撃を食らわせていたのである。
にもかかわらず、ランブには攻撃が跳ね返ってきていない。
【 ランブ 】
(どういうことだっ? 僵尸化した拳ならば、反射されないのかっ……?)
【 タシギの成れの果て 】
『てめェッ……!』
【 ランブ 】
「…………っ!」
突進してくる相手に向かい、ランブは左の拳を握って、真っ向から打ち込む――
――ドカッ!
【 ランブ 】
「ぐおっ!?」
ランブの巨体が、軽々と背後へ跳ね飛ばされていた。
【 屍冥幽姫 】
「ランブさんっ――!?」
【 ランブ 】
「ぐっ……! くうっ……」
かろうじて転倒をまぬがれ、体勢を立て直す。
先ほどと違い、今度はランブの打撃は跳ね返された。
全力で繰り出した突きではなかったものの、それでも骨が軋むほどの威力である。
【 ランブ 】
(僵尸化していればいい、ということではないと……!?)
【 タシギの成れの果て 】
『ククッ……なんだ、さっきのはマグレかァ……? だったら、じっくり嬲り殺してやるよッ……!』
【 ランブ 】
「…………っ!」
異形と化したタシギが、ランブに襲いかかる――
――ピタッ……
【 タシギの成れの果て 】
『……ぐッ!? な……なんだ……これはッ……!』
巨躯の動きが、ぴたりと止まっている。
あたかも、その場に縫いつけられたかのように。
【 ランブ 】
「これはっ……」
【 ???? 】
「――間に合ったようでございますね……!」
空から、若々しい声が降ってきた。
空中からひらりと地上に舞い降りてきたのは、
【 宝玲山の将 】
「おおっ、副軍師補佐っ!」
【 ランブ 】
「……っ、小幻魔殿っ……!」
【 ギョクレン 】
「遅くなって申し訳ないのでございます――小幻魔、青・ギョクレン、ただいま参上でございます!」
方士ギョクレンであった。
【 タシギの成れの果て 】
『ググッ……てめェかッ……この、術はッ!』
【 ギョクレン 】
「覚えたての小手先技ですが……動きを封じるだけなら、上々でございますので!」
〈獰鵬天聖〉の〈烏籠の陣〉を応用した術である。
【 ランブ 】
「小幻魔殿っ、この相手はっ……」
【 ギョクレン 】
「ええ、おおかたは承知しているのでございます――おそらく、あやつを守っているのは〈怨憎返報〉の術!」
【 ギョクレン 】
「すなわち、己に向けられた怨みや憎しみを、攻撃ごと跳ね返す邪法でございます……!」
【 ランブ 】
「怨みや、憎しみをっ……?」
つまるところ、相手の敵意に反応して、攻撃を反射する――という仕組みであるらしい。
だとすれば、先ほどランブの左手による打撃が通ったのは、彼女の意志によるものではなかったためであろう。
左手に意志があるのなら、話は別だが。
【 ランブ 】
「ではっ……どうすれば、斃せるっ?」
【 ギョクレン 】
「あらゆる邪念を捨てた攻撃ならば、効果はありましょうがっ……容易ではないかと!」
【 ランブ 】
「――――っ」
あらゆる敵意を断ち切りつつ、なおかつ、相手を殺す……
そんな達人のごとき真似は、常人にはとうてい成しえないであろう。
【 タシギの成れの果て 】
『クククッ……やれるものかよッ……!』
【 ???? 】
「――たしかに、難しいことだ。人が人を殺すとき、何の感情も抱かないことなど、およそ不可能ゆえな」
凛とした声が、その場に割り込んだ。
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