◆◆◆◆ 9-101 鶴風の戦い(50) ◆◆◆◆
【 タシギの成れの果て 】
『グッククッ……アァハハァッ……!』
自らは指一本動かすことなく、カズサらを血の海に沈めた妖人タシギは、返り血を舐めて高笑いをあげる。
【 宝玲山の将 】
「くそっ……なんだっ、あの化け物っ……!?」
さしもの強者たちも、困惑を隠せない。
【 ランブ 】
「攻撃を跳ね返すだとっ……方術のたぐいかっ?」
【 屍冥幽姫 】
「お、恐らくはっ……邪法の一種かとっ……!」
となれば、うかつに手を出すのは自殺行為――
だが、このまま手をこまねいているわけにもいかない。
【 タシギの成れの果て 】
『……ククッ……クソ天子は、そこの洞穴に籠ってやがるなァッ……!』
せせら笑いながら、タシギの成れの果てはじわじわと前進を開始する。
【 ランブの配下 】
「な、凪将軍っ……!」
【 ランブ 】
「――足止めして、時間を稼ぐっ! その間に、陛下を脱出させるのだっ!」
【 宝玲山の将 】
「おおっ……!」
【 タシギの成れの果て 】
『はァッ? させる……かよオッ……!』
――ドォンッ!
タシギだったものが、地を蹴って洞窟の入口へ走りはじめる。
【 宝玲山の兵 】
「くっ……行かせるかっ!」
【 宝玲山の兵 】
「そうやすやすとっ!」
そうはさせじと兵たちが立ち向かうが、
【 タシギの成れの果て 】
『邪魔だッ……!』
――ドカァッ!
【 宝玲山の兵 】
「うぐうっ!?」
【 宝玲山の兵 】
「ぐああっ!?」
阻止せんとする兵たちを腕の一振りでたやすく蹴散らし、まっしぐらに洞窟へと向かう。
【 ランブ 】
「やらせんっ……!」
ランブはその前に立ちはだかり、突進を受け止めにかかる。
【 タシギの成れの果て 】
『邪魔するなッ、デカブツがッ……!』
――ガキイッ!
【 ランブ 】
「ぬうっ……!」
【 タシギの成れの果て 】
『…………ッ!』
斧刃を向けず、斧腹の部分でかろうじて受け止め、その足を止める。
刃で傷を与えることで、跳ね返ってくるのを恐れたのだ。
【 タシギの成れの果て 】
『ククッ……双豪斧、だったかッ? たいした馬鹿力だなァッ……!』
【 ランブ 】
「陛下にはっ……指一本、触れさせはせんっ!」
【 タシギの成れの果て 】
『アァッハハッ! 結構な心がけだな――しかしッ!』
――ガブウッ! ブシャアッ!
【 ランブ 】
「ぐおっ!?」
突如、血しぶきとランブの苦悶の声がほとばしる。
【 屍冥幽姫 】
「ランブさんっ!?」
妖人の左右の翼が変形し、鰐さながらの鋭い牙の生えた顎となり、ランブに食らいついている……!
【 タシギの成れの果て 】
『アァッハハハッ! そォら、いつまで持ちこたえられるかなァッ……!』
ランブに咬みついた牙が、肉を裂き、骨に達する……!
【 ランブ 】
「ぐっ……ぬううっ……これしきのっ……ことでっ!」
失血と激痛で、意識が薄れかけてくる……
【 宝玲山の将 】
「ランブ殿っ!」
【 ランブ 】
「わ……私のことは、いいっ……それよりっ……陛下をっ!」
【 タシギの成れの果て 】
『クックク、涙ぐましいなァッ……! いいぜ、てめェの死体の前で、あのクソ天子を切り刻みながら、食らってやるよッ……!』
――ブシュウッ!
さらに牙が深々とランブの身に食い込み、鮮血が噴き出す。
【 ランブ 】
「ぬっ、ぐううううっ……! させるっ……ものかっ……!」
ランブがさらに押し込まれ、もはや支え切れないと思われた、そのとき――
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