◆◆◆◆ 9-84 鶴風の戦い(33) ◆◆◆◆
そのころ、戦場の上空では……
【 ギョクレン 】
「おっ……皆、突破できたようでございますね! 賊は取り逃しましたか……まあ、仕方なし!」
地上の様子を眺めながら呟くのは〈青・ギョクレン〉、ヨスガ一党の方士である。
【 馬のような生き物 】
「メエエエエエ……」
彼がまたがる翼のある奇妙な馬のような生物が、鳴き声をあげる。
風変わりな見た目によらず、れっきとした霊獣であり、人を乗せて空を飛ぶくらいのことは造作もない。
【 ギョクレン 】
「……さてと、うちの役目はこんなところでございますね!」
彼がヨスガから与えられた任務は、ランブたちの援護であった。
暴風雨を起こしてグンム軍を混乱させ、さらには本陣の位置を伝えたのである。
【 ギョクレン 】
「むう~……うちが本気を出せば、もっと大暴れできるのでございますがっ……」
しかし、直接的な敵軍への攻撃は、大首領たるヨスガから禁止されている。
方士が前線に出てきて方術を用いると、双方に甚大な被害が出る可能性がある。
それを避けるために、あくまで方術は支援にとどめる……というのが、ヨスガの判断であった。
【 ギョクレン 】
「うむう~……うちなら、そこいらの方士がたばになってかかってきたところで、後れは取らないのでございますがっ……」
【 ギョクレン 】
「……まあ、是非もなしでございますね! 早いところ師父たちと合流しなくては――」
と、セイレンらのもとへ向かわんとしたとき……
【 馬のような生き物 】
「……ンメエェェ~~……」
【 ギョクレン 】
「……んんっ? どうしたのでございます、〈小牛姫(しょうぎゅうき〉?」
彼の駆る霊獣が、なぜか動かない。
【 ギョクレン 】
「もしや、お腹が空いたのでございますかっ? 急いでいるので、しばらく我慢するのでございますっ!」
【 小牛姫 】
「ンメヘェェェ……」
【 ギョクレン 】
「んんんっ? 違う……これはっ?」
……ヒュウウウウゥ……
気づけば、ギョクレンたちの周囲を風が取り囲んでいる……!
【 ???? 】
「――悪いが、ゆかせるわけにはいかぬな」
【 ギョクレン 】
「…………っ!」
バサッ……バサッ……
【 翼を持つ者 】
「ま……しばらく、ここでゆっくりしていくといい」
翼を持ち、鳥を思わせる仮面をつけた見知らぬ人物が、前方に浮かんでいる。
【 黒猫 】
「…………」
その肩には、ちょこんと黒猫が載っかっている。
【 ギョクレン 】
「むむっ……賊に与する方士でございますかっ!」
【 翼を持つ者 】
「ま、そちらから見れば、そういうことになるな」
【 翼を持つ者 】
「〈獰鵬天聖〉――などと、呼ばれている。君が〈小幻魔〉だな?」
【 ギョクレン 】
「いかにも! 誉れ高き〈幻聖魔君〉藍老師の一番弟子、小幻魔こと青・ギョクレンでございます!」
【 獰鵬天聖 】
「ご丁寧な自己紹介、いたみいる」
【 ギョクレン 】
「うちを斃すために現れたのでございますかっ!」
【 獰鵬天聖 】
「その通り……といえば勇ましいところだが、そうではない。私の役目は、足止めにすぎないよ」
【 ギョクレン 】
「…………っ?」
【 獰鵬天聖 】
「君の実力は、噂に聞いている。まともにぶつかっては、こちらもただではすまないのでね……ま、時間稼ぎ、というところだ」
【 ギョクレン 】
「ぬぬっ……師父や大首領たちのところへ行かせないつもりでございますかっ!」
【 獰鵬天聖 】
「別に、彼女たちや君に恨みはないがね……ま、これも仕事、というやつだ。ご理解ねがおう」
【 黒猫 】
「…………」
黒猫が己の顔を撫でる。
【 ギョクレン 】
「知ったことではございませんっ! 力づくで通していただくのでございます――ええいっ!」
――バリバリバリッ!
ギョクレンが、獰鵬天聖に向けて電撃を放つ――
【 獰鵬天聖 】
「――――っ」
――シュウウゥン……
しかし、雷は相手に届くことなく、途中で掻き消えてしまった。
【 ギョクレン 】
「これはっ……!」
ヒュゥウウウゥ……!
先ほど以上の、何層もの風の結界がギョクレンを取り囲んでいる。
【 獰鵬天聖 】
「言っただろう? まともにやり合う気はないとね……ま、ほんの少し、足止めできればそれでいいのさ」
【 ギョクレン 】
「ぬぬぬっ……小賢しい真似をっ……!」
ギョクレンは端正な顔を歪め、歯噛みする。
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