◆◆◆◆ 9-82 鶴風の戦い(31) ◆◆◆◆
――バイシが壮烈な討ち死にを遂げた、その頃。
ドドッ……ドドドッ……
帝都近辺にて、西に向かう騎馬の一団の姿がある。
【 ランブ 】
「――皆、ついてきているなっ?」
【 カズサ 】
「ええ――あらかたはっ!」
鶴風城に立てこもって敵を引きつけていた凪・ランブや閃・カズサたち。
現在は包囲陣を突破して城を脱出し、一路、西へと向かっていた。
その数、およそ三百騎。
【 屍冥幽姫 】
「シシシ……兵たちが、いささかは時を稼いでくれましょう……」
包囲軍は屍冥幽姫が呼び出した死人の群れ――冥軍に足止めされており、すぐには追撃に移れずにいる。
【 ランブ 】
「かさねがさね、助かった、ウヅキ殿っ!」
【 屍冥幽姫 】
「シシッ……だいぶ、くたびれたので……後は、あまりアテにしないでください……シシィ……」
当初、鶴風城には数千の兵が立てこもっている――と見られていたが、そのほとんどは彼女が操る屍だった。
撤退時といい、屍冥幽姫ありきの作戦であり、消耗するのも無理はない。
【 ランブ 】
「うむ、後は任された――ゆっくり休まれよっ!」
【 屍冥幽姫 】
「そうさせていただきます……ご武運、を……シ……シシ……」
と、屍冥幽姫はランブの影へと消えていった。
【 カズサ 】
「消えてしまいましたけどっ!? 大丈夫なのですか!?」
【 ランブ 】
「おそらくなっ! それよりも――」
目指すは、ヨスガたちとの合流……
だが、もとよりそう簡単にはいきそうにない。
【 カズサ 】
「――っ! ランブ大姐、あれを……!」
【 ランブ 】
「うむ――」
ランブたちの前方には、嶺・グンム率いる本軍、約十万の大軍が待ち構えているのである。
【 官軍の兵 】
「東より、鶴風城を脱出した敵兵が接近中! その数、ざっと三百ほど――」
ヨスガの爆死?による混乱はすでに収まり、グンムの本軍はすでに落ち着きを取り戻している。
そこへ、敵が迫っているという知らせが入った。
【 グンム 】
「ほう……包囲陣を突破したか。大した逃げ足だな」
十万の兵を相手に、わずか数百騎で挑むなど、正気の沙汰ではない。
ただ突破するだけでも、容易なことではなかった。
【 グンム 】
「……玉砕する気か?」
【 ダンテツ 】
「いえ……それはありえません」
汐・ダンテツが首を振る。
【 グンム 】
「なぜ、そう思う?」
【 ダンテツ 】
「凪将軍の娘たるあの御仁が、そんな無謀な真似はいたしますい。必ずや、なにか策があるかと」
【 グンム 】
「ほう……?」
ランブたちとグンム軍は、お互いの顔がわかるまでに接近した。
敵方からは、ちらほらと矢が飛んできている
【 カズサ 】
「大姐っ……これ以上はっ!」
【 ランブ 】
「ああ――合図を!」
【 ランブの部下 】
「はっ……!」
ランブの命で、空中に矢が放たれる――ほどなく、
――ドオンッ……!
矢じりについた火薬が炸裂し、空に響いた。
すると、たちまち、空に異変が生じはじめる――
――ゴオォッ……ザアァッ!
【 官軍の将兵 】
『な、なんだっ……急に、雨風がっ……』
突然、空が真っ暗になったと思いきや、グンムの陣を暴風雨が見舞ったのだ。
【 ダンテツ 】
「ぬう……これはまるで、あの時のようなっ!」
レツドウが急死した際も、突然の悪天候に見舞われたことを思い出すダンテツ。
【 グンム 】
「なるほど、こういうことかっ……相手にも、凄腕の方士がいるらしいなっ!」
雨風に負けじと怒鳴るグンム。
天候の操作は、神仙級の実力がなければ不可能な大技である。
【 ダンテツ 】
「ではっ……我らを突破するためにっ!?」
【 グンム 】
「それも、一つはあるだろうよっ! だが――」
【 グンム 】
「俺なら、もう一手、重ねるところだなっ!」
ドドッ……ドドドッ……!
【 ダンテツ 】
「――――っ!」
局地的な嵐の中、何者かが本陣に迫ってくる――
【 ダンテツ 】
「まずいっ! 皆、将軍をお守りせよっ!」
――ドオォンッ!
【 官軍の兵 】
「ぐあああっ!?」
【 官軍の兵 】
「ぎゃあああっ!?」
【 ダンテツ 】
「ぬっ……!?」
暴風の中、血しぶきが高々と噴き上がる。
兵馬を蹴散らし、暗がりから飛び出してきたのは、両手に大斧を構えた、巨体の戦士――
【 ランブ 】
「ここにいたかッ、嶺将軍っ! 否――」
【 ランブ 】
「謀叛人、嶺・グンムッ!」
【 グンム 】
「…………っ!」
【 ランブ 】
「大逆の罪人の首、このランブが――もらい受けるッ!」
――ブォンッ!
〈双豪斧〉こと凪・ランブの振り下ろした斬撃が、グンムへと迫る――
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