◆◆◆◆ 3-13 天意 ◆◆◆◆
明けて翌日――
タイシンとユイの姿は、すでに邑から離れた街道にあった。
【 ユイ 】
「やれやれ……とんだ目に遭いましたね」
【 タイシン 】
「しかし、それだけの価値はあったというものさ」
【 ユイ 】
「例の方士のお宝に、ずいぶんご執心だったようですけど?」
【 タイシン 】
「むむ……あれは神仙の世界においても貴重な一品だからな。もっとも、仙才のない凡人が手にすれば、それだけで精気を吸い取られてしまうがね」
【 ユイ 】
「……下手に触ろうとしたりしなくてよかったですよ」
【 タイシン 】
「サノウ殿とは渡りをつけておいた。あの御仁、たいそう仙薬に興味があるようだからな」
【 タイシン 】
「希少な薬の材料を工面しようと申し出たら、あっさり飛びついてきたよ。ま、さしあたりは好きに泳いでもらうが」
【 ユイ 】
「……大丈夫なんですか、あの人?」
【 タイシン 】
「……だいぶ風変わりな御仁なのは間違いないな」
【 ユイ 】
「それより、肝心の大魚のほうは釣れたんですか?」
【 タイシン 】
「それは――」
タイシンは、別れ際のグンムとのやりとりを思い出す……
【 タイシン 】
「――では、我らはこれにて」
【 グンム 】
「おお……あえてお見送りもしませんが」
【 タイシン 】
「なに、お気遣いなく。それにしても昨夜は、奇怪なことでありました」
【 グンム 】
「一夜の夢……と思っていただけるとありがたいが、そうもいきますまいなぁ」
【 タイシン 】
「夢にしては、いささか度がすぎるというもの。もとより、口外する気はございませんが……しかし」
【 グンム 】
「…………」
【 タイシン 】
「幽聖岳の方士を客として迎えるとは、これはもう、天意も同然かと」
【 グンム 】
「……やれやれ、天意、ですか。そこまでして、私を引っ張り出したいので?」
【 タイシン 】
「私のような者が小細工するまでもありますまい。あとはもう、将軍の御心ひとつかと」
【 グンム 】
「いやはや……誰も彼も、買いかぶりすぎってもんですよ。しかしまぁ――」
【 グンム 】
「――座して死を待つほど、腑抜けちゃあいません」
そう断言したグンムの目には、沸々たる熱情が滾っていた……
【 タイシン 】
「必要となれば、いつでもお声がけください――とは伝えておいた。これから先は、あの男次第だよ」
【 ユイ 】
「…………」
【 タイシン 】
「なにか言いたそうじゃないか」
【 ユイ 】
「いや――いたく、楽しそうだと思っただけですよ」
【 タイシン 】
「そうかな?」
蒼空を見上げながら、タイシンは微笑んだ。
【 タイシン 】
「――たしかに、そうかもしれないな」
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