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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
369/421

◆◆◆◆ 9-69 鶴風の戦い(18) ◆◆◆◆

【 タシギ 】

「ククッ……アッハハハッ! コイツはッ……なかなかだッ!」


 ミズキの放った一撃で致命傷を負ったタシギであったが、その異形の左目が輝くや、たちまち回復した。


【 ミズキ 】

「――――ッ」


【 タシギ 】

「ククッ、残念だったなァッ! 驚いて声も出ねェってかッ!」


【 ミズキ 】

「――そうでもありませんよ」


 ただの強がり……と、いうわけでもない。

 ミズキは、〈リョウ氏の変〉においては妖魔〈千眼万笑せんがんばんしょう〉と相対し、その後には自称・死神〈催命翔鬼さいめいしょうき〉と手を合わせてきた。


【 ミズキ 】

(こういった人ならざる者と、縁があるとでも――?)


 まったく嬉しくもない、奇縁である。


【 ミズキ 】

(この力……方術というより、邪法の類――)


【 ミズキ 】

「なにやら、仕掛けがあるようですが……ならば、回復が間に合わないほどに、切り刻むのみ!」


【 タシギ 】

「ぬッ……!」


 ザシュッ! バシュウッ!!


【 タシギ 】

「ぐッ!? がッ……アアッ!」


 ミズキが立て続けに放った空刀そらがたなが、タシギの身体を切り刻み、鮮血をほとばしらせる――が、


【 タシギ 】

「――ぐぉッ! おおおおおッ……!」


 タシギの左眼がきらめくや、たちまち負傷が消え失せる。

 と、同時に。


【 官軍の兵 】

「……ぎゃっ!?」


 ドシャッ!


【 ミズキ 】

「――――っ?」


【 官軍の兵 】

「ぐぇえっ……!」


 ドドッ……!


 後方から追いかけてきている官軍の騎兵が、苦悶しながら続けざまに落馬していった。


【 ミズキ 】

「――――っ! もしや、その左眼の力っ……」


【 タシギ 】

「アッハハッ! アタシの身代わりになれるんだ、アイツらもさぞかし嬉しいだろうよッ……!」


【 ミズキ 】

「……そういうことですか。趣味の悪い仕掛けですね」


【 ミズキ 】

(己が受けた傷を、他人に移す――といったところか?)


 だとすればしかし、当のミズキに返さないのは不自然である。

 あるいは、傷を与えた本人には返せない……という縛りがあるのかもしれない。

 また、ヨスガ側の兵を身代わりにはできないようだ。


【 ミズキ 】

(あらかじめ、仕込んでおかねば使えない……か)


 どうあれ、厄介なことには違いない。


【 ミズキ 】

(このような力……いったい、どこで――?)




 ――これより、数日前。


【 タシギ 】

「……ぐッ、うッ……うううううッ……!」


 幕舎の中で、タシギは煩悶していた。


【 タシギ 】

「おのれッ……おのれえええッ……!」


 銅鏡どうきょうで己の顔を眺め、唸り声をあげる。

 左眼は光を失い、鼻から下は傷だらけで、かつての面影はない。


【 タシギ 】

「――クソがッ……!」


 銅鏡を放り捨て、寝台に突っ伏す。


【 タシギ 】

(不覚を……取ったッ……!)


 方士〈雲竜飛聖うんりゅうひせいヘキ・サノウが持つ祭器〈甘露盃かんろはい〉の力で、傷口はふさがった。

 しかし、さしもの甘露盃とても、失われた視力や傷跡を癒すほどの力はない。


【 タシギ 】

「……うぐッ……うううッ!」


 片目を失えば、距離感を掴むことが困難となる。

 力自慢の豪傑ならまだしも、彼女のように機敏さを生かす剣士にとっては、致命的だった。


【 タシギ 】

「クソがッ……! あのクソ医者ッ……クソ天子がッ……この恨み……必ずッ……!」


 彼女の憎悪の対象は、仇であるゼンキョクのみならず、彼女の主である皇帝ヨスガにも向けられていた。


【 ???? 】

「――荒れているな、タシギきょう


【 タシギ 】

「っ! アンタ……」


 幕舎へ入ってきたのは、この軍の最高司令官たるレイ・グンム。


【 タシギ 】

「……フン、アタシを罰しに来たのかッ……?」


【 グンム 】

「そうではない。本来なら軍規違反だが、今回の一件、とがガク老師にあるのでな」


【 タシギ 】

「だったら、笑いに来たのかよッ? ザマぁないってなァ……!」


【 グンム 】

「私はそんなにヒマではないさ。もちろん、見舞いに来たわけでもない」


【 タシギ 】

「はァ? だったらいったい、なにしに――」


 と、タシギが顔を上げて、グンムを見ると。


【 タシギ 】

「…………ッ!」


【 ???? 】

「――――」


 グンムの背後に、影のように寄り添う姿があった。

 鮮血のように紅い瞳が爛爛らんらんと輝き、タシギを見つめている――

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