◆◆◆◆ 9-68 鶴風の戦い(17) ◆◆◆◆
【 宝玲山の将 】
「なっ……単騎で突っ込んでくるとはっ!」
黒づくめの騎手――すなわちタシギが、疾風のごとくヨスガたちに接近してくる。
【 宝玲山の将 】
「舐めてくれるっ……射落としてやれっ!」
【 宝玲山の兵 】
『おおっ! くたばれ……!』
ヒュッ……ドドッ!
急接近してくる一騎の人馬に、雨あられと矢が放たれる――が、
【 タシギ 】
「――――っ!」
刀を一閃するや、たやすく矢は切り払われた。
【 宝玲山の将 】
「なっ……!?」
【 ヨスガ 】
「ミズキ! あやつはっ……」
【 ミズキ 】
「ええ――危険な相手です。エキセン殿!」
【 エキセン 】
「クク……心得た、矢は、任せてもらおうっ……」
【 ミズキ 】
「頼みます――では、行ってまいります、陛下」
【 ヨスガ 】
「――うむ。油断するな」
一礼して、ミズキは馬首を巡らせた。
【 タシギ 】
「来たか――空刀使い、〈紅雪華〉ッ!」
【 ミズキ 】
「そういう貴方は――銀司馬でしたか? ずいぶん、印象が変わりましたね」
【 タシギ 】
「てめェらの手下のおかげでなァッ……!」
――ヒュッ!
【 ミズキ 】
「おっと――」
タシギの斬撃を、馬上で躱すミズキ。
【 タシギ 】
「ここでまとめて片付けてやるよッ!」
【 ミズキ 】
「それは無理な相談ですね。なぜなら――」
【 ミズキ 】
「――私が、ここにおりますので」
【 タシギ 】
「しゃらくさいッ……!」
ヒュッ! ブォンッ! ヒュウンッ!
目にも止まらぬタシギの太刀筋……しかし、ミズキの身体には届かない。
【 タシギ 】
「ちいっ……!」
【 ミズキ 】
(思ったほどではない――)
隻眼になったことで、距離感が掴めていないのかもしれない。
【 ミズキ 】
(――けれど、嫌な気配がある)
なにか、奥の手がある――と、ミズキは肌で感じ取っていた。
タシギを負傷させた張本人である晏・ゼンキョクから聞いた話が、思い出される。
【 ゼンキョク 】
『――手負いの獣ほど、厄介なものです。あの御仁、いかなる手段を用いても、私に……私たちに、牙を剥くことでしょう。お気をつけください』
【 ミズキ 】
(ならば、それを出す前に仕留めるのみ!)
【 ミズキ 】
「はぁッ!」
――ドカッ!
【 タシギ 】
「ぐうっ!? く、クソがァッ……!」
ミズキの放った蹴りで、タシギの体勢が崩れる。
そこを逃さず――
【 ミズキ 】
「――せいッ!」
至近距離で、渾身の空刀を叩き込む……!
【 タシギ 】
「――――っ!」
シュボオォッ!
【 タシギ 】
「ぐ……がッ……アアッ!」
ミズキの放った一撃が、タシギの右脇腹を抉り取っていた。
かろうじて落馬こそまぬがれたが、まちがいなく致命傷――
【 ミズキ 】
「…………っ!」
しかしミズキは、不穏な気配を覚え、とっさに距離を取っていた。
【 タシギ 】
「グッ……ぐぐゥッ……! あ、あァ、いいとも、くれてやるよッ……おおおッ!」
血を吐きながら、タシギは眼帯をむしり取った。
そこに嵌っているのは、義眼ではなく、まがまがしい色の珠。
その珠が、妖しい光を放ち――
【 タシギ 】
「ぬううぅッ……!」
ブジュルッ……ジュルウゥッ!
【 ミズキ 】
「っ! これはっ――」
肉が盛り上がって、命取りの深手が見る間にふさがり、元に戻っていく……!
【 タシギ 】
「はァッ、はァアッ……! ククク……クッハハッ! なかなか……使えるじゃねェかッ……アッハハハッ!」
タシギは仰け反りながら、狂気をはらんだ高笑いをあげる――
ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!




