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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
368/421

◆◆◆◆ 9-68 鶴風の戦い(17) ◆◆◆◆

【 宝玲山の将 】

「なっ……単騎で突っ込んでくるとはっ!」


 黒づくめの騎手――すなわちタシギが、疾風のごとくヨスガたちに接近してくる。


【 宝玲山の将 】

「舐めてくれるっ……射落としてやれっ!」


【 宝玲山の兵 】

『おおっ! くたばれ……!』


 ヒュッ……ドドッ!


 急接近してくる一騎の人馬に、雨あられと矢が放たれる――が、


【 タシギ 】

「――――っ!」


 刀を一閃するや、たやすく矢は切り払われた。


【 宝玲山の将 】

「なっ……!?」


【 ヨスガ 】

「ミズキ! あやつはっ……」


【 ミズキ 】

「ええ――危険な相手です。エキセン殿!」


【 エキセン 】

「クク……心得た、矢は、任せてもらおうっ……」


【 ミズキ 】

「頼みます――では、行ってまいります、陛下」


【 ヨスガ 】

「――うむ。油断するな」


 一礼して、ミズキは馬首を巡らせた。




【 タシギ 】

「来たか――空刀使い、〈紅雪華こうせっか〉ッ!」


【 ミズキ 】

「そういう貴方は――ギン司馬でしたか? ずいぶん、印象が変わりましたね」


【 タシギ 】

「てめェらの手下のおかげでなァッ……!」


 ――ヒュッ!


【 ミズキ 】

「おっと――」


 タシギの斬撃を、馬上でかわすミズキ。


【 タシギ 】

「ここでまとめて片付けてやるよッ!」


【 ミズキ 】

「それは無理な相談ですね。なぜなら――」


【 ミズキ 】

「――私が、ここにおりますので」


【 タシギ 】

「しゃらくさいッ……!」


 ヒュッ! ブォンッ! ヒュウンッ!


 目にも止まらぬタシギの太刀筋……しかし、ミズキの身体には届かない。


【 タシギ 】

「ちいっ……!」


【 ミズキ 】

(思ったほどではない――)


 隻眼になったことで、距離感が掴めていないのかもしれない。


【 ミズキ 】

(――けれど、嫌な気配がある)


 なにか、奥の手がある――と、ミズキは肌で感じ取っていた。

 タシギを負傷させた張本人であるアン・ゼンキョクから聞いた話が、思い出される。


【 ゼンキョク 】

『――手負いの獣ほど、厄介なものです。あの御仁、いかなる手段を用いても、私に……私たちに、牙を剥くことでしょう。お気をつけください』


【 ミズキ 】

(ならば、それを出す前に仕留めるのみ!)


【 ミズキ 】

「はぁッ!」


 ――ドカッ!


【 タシギ 】

「ぐうっ!? く、クソがァッ……!」


 ミズキの放った蹴りで、タシギの体勢が崩れる。

 そこを逃さず――


【 ミズキ 】

「――せいッ!」


 至近距離で、渾身の空刀を叩き込む……!


【 タシギ 】

「――――っ!」


 シュボオォッ!


【 タシギ 】

「ぐ……がッ……アアッ!」


 ミズキの放った一撃が、タシギの右脇腹をえぐり取っていた。

 かろうじて落馬こそまぬがれたが、まちがいなく致命傷――


【 ミズキ 】

「…………っ!」


 しかしミズキは、不穏な気配を覚え、とっさに距離を取っていた。


【 タシギ 】

「グッ……ぐぐゥッ……! あ、あァ、いいとも、くれてやるよッ……おおおッ!」


 血を吐きながら、タシギは眼帯をむしり取った。

 そこにはまっているのは、義眼ではなく、まがまがしい色のたま

 その珠が、妖しい光を放ち――


【 タシギ 】

「ぬううぅッ……!」


 ブジュルッ……ジュルウゥッ!


【 ミズキ 】

「っ! これはっ――」


 肉が盛り上がって、命取りの深手が見る間にふさがり、元に戻っていく……!


【 タシギ 】

「はァッ、はァアッ……! ククク……クッハハッ! なかなか……使えるじゃねェかッ……アッハハハッ!」


 タシギは仰け反りながら、狂気をはらんだ高笑いをあげる――

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