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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
360/421

◆◆◆◆ 9-60 鶴風の戦い(9) ◆◆◆◆

 ドドッ……ドドドッ……!


 地を揺らすグンムの本軍が、帝都〈万寿世春ばんじゅせいしゅん〉の目前にまで迫っている。

 鶴風かくふう城に約三万、凍公堰トウこうせき方面に約二万の兵を差し向けた。

 それでもなお、本軍には十万ほどの兵があり、みやこを包囲するには十分なものだった。


【 ダンテツ 】

「将軍、いかがなさいます?」


【 グンム 】

「ふむ、そうだな、まずは……」


 と、グンムが命を下そうとした矢先、


 ……ゴゴゴゴ……


 帝都の南門が、開きはじめた。


【 ダンテツ 】

「…………! 兵が出てくるのでしょうか?」


【 グンム 】

「む……いや待て、あれは――」


 ドン! ドォン、ドォン……!


 太鼓の音とともに、門からなにかが出てくる。

 それは――


【 官軍の兵 】

「なんだ……投石機かっ?」


【 官軍の兵 】

「いや、ありゃあ……やぐらだ!」


【 グンム 】

「――――っ」


 門から出てきたのは、巨大な櫓であった。

 からくり仕掛けで、みるみるうちに高さを増してゆき、少なく見積もっても十宙丈(約30メートル)にまで達する。

 そして、その頂上部分には人影があり――


【 官軍の将 】

「あれは――」


【 官軍の将 】

「ま、まさかっ……!?」




【 ヨスガ 】

「ほほう、なかなかの絶景よな」


【 ミズキ 】

「まことに」


 前方に目を向ければ、雲霞うんかのごとき兵士。

 *雲霞……雲とかすみ、ものすごい多さの意。


 背後には、広大な帝都の街並みが広がっている。


【 ヨスガ 】

「さて……やるか。準備はいいな?」


【 ミズキ 】

「はい。……こちら、副軍師補佐ギョクレンがこしらえた祭器です」


 そう言ってミズキが差し出したのは、皿に乗った生首であった。

 もとより作り物ではあるが、あまりいい趣味ではない。


【 ヨスガ 】

「……その見た目、もう少しどうにかならなかったのか?」


 その首は、どう見てもギョクレンの師・セイレンそのものだった。

 それも、切り落とされたばかりのように、苦悶の表情を浮かべている。


【 ミズキ 】

「さぁ……敬愛する師父を模したかったのではないでしょうか」


【 ヨスガ 】

「……まあよい。使い方は……なになに、このツマミをひねる? ふむ、なるほどな……では――」




【 ヨスガ 】

『――聞こえるか、叛逆者ども! 我こそは、ちゅう王朝の第207代皇帝たるエン・ヨスガである!』


【 官軍の将兵 】

『おおおっ……!?』


 櫓の上から鳴り響いた尋常ならざる大声に、将兵がどよめく。


【 官軍の将 】

「あの声はっ……今上きんじょうの……!」


【 ダンテツ 】

「あれは、いったいっ……」


【 グンム 】

「ふむ……方術の類であろうな。音を増幅させているのだろうよ」


 狼狽する周囲をよそに、グンムは落ち着き払っている。


【 ヨスガ 】

『官軍として出兵しながら、今、叛逆者となって帝都を攻めんとするとは、いかなる存念かっ! 恥を知れい!!』


【 官軍の将兵 】

『…………っ』


 将兵に、いささか動揺の色が浮かぶ。

 いくらグンムから


 ――これは義軍である。


 と説明を受けてはいても、皇帝じきじきの叱声を浴びては、少なからず戸惑わざるをえないであろう。


【 ヨスガ 】

『この上は、我は帝都に籠城し、各地から義勇軍が駆けつけるのを待たんとも考えた――』


【 ヨスガ 】

『――が、しかし、そうすればみやこの民に少なからぬ苦難を味わわせ、多くの犠牲を生むことになるであろう。ゆえに……』


【 ヨスガ 】

『我は――去ることを決めた』


【 ヨスガ 】

『最後に、我が思いの丈を聞くがよい――』


 悲壮さのこもった琵琶の音が響く。

 そして、朗朗ろうろうたる歌がそれに続いた。

 *朗朗……くもりなく、明らかな意。



 ――天命、すでに去りて戻らず


 ――されど恥辱は受けいれ難し


 ――せめてこの身は煙となりて


 ――その名を後の世にとどめん



 伸びのある美声――それはミズキのものであった――が響く。

 思わず将兵が聞きほれた、その直後……


【 ヨスガ 】

『では――さらば!』



 ――ドオオオオォォォンッ!!



【 官軍の将兵 】

『――――!?』


 空をつんざくような轟音とともに、櫓が爆発炎上した――

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