◆◆◆◆ 9-52 鶴風の戦い(1) ◆◆◆◆
大宙暦3133年(帝ヨスガ2年)、仲秋の月(8月)、10日――
帝都〈万寿世春〉の間近に、嶺・グンムひきいる大軍勢が押し寄せていた。
その数、およそ十五万。
一方、帝都に残存する戦力は、多く見ても二万あまり……
常識的に考えて、とうてい勝負になるものではない。
実際、天子たる焔・ヨスガも、早々に帝都からの脱出を宣言していた。
ほとんどの者が、
――戦いらしい戦いには、ならないだろう。
と、考えていた。
しかし、事態は思いがけない方向へ進むこととなる――
【 グンム 】
「――あれか?」
【 ダンテツ 】
「はい、〈鶴風城〉です」
グンムに問われた汐・ダンテツが指差した先には、小高い丘に築かれた城がある。
グンムの軍が迫る中、帝都近辺のほとんどの城邑は降伏を申し出てきているが、唯一、かの鶴風城だけはそうしていない。
*城邑……城壁で囲まれた町の意。
いや、それどころか、
【 ダンテツ 】
「数千の兵が立て籠り、我が軍への抗戦に備えているとか……現在、斥候を出して探っておりますが」
*斥候……ここでは偵察兵の意。
【 グンム 】
「ふむ……城民を兵としているということか?」
【 ダンテツ 】
「いえ、それが……むしろ、民は他の邑へと避難させた模様です」
【 グンム 】
「ほう……? だとしたら、その数千の兵とやらは、いったいどこから降って湧いたのだ?」
【 ダンテツ 】
「さて……義勇兵が集まった、といった可能性もなきにしもあらずですが。あるいは、流民のたぐいを掻き集めたか……?」
【 グンム 】
「どうあれ、捨て置くわけにはいくまいな」
あの規模の城であれば、本来、無視しても差し支えはない。
だが、公然と抵抗を示す相手を見逃せば、軍の威信にかかわることになろう。
【 グンロウ 】
「将軍っ! どうか、この俺にお任せをっ! あんな小城、軽々と踏みつぶしてご覧に入れましょうっ!」
グンムの弟にして軍中きっての猛将、〈突先鋒〉こと嶺・グンムが名乗りをあげる。
【 ダンテツ 】
「いや、ここは私に――ぜひ、名誉挽回の機会をお与えいただきたい」
〈鋼骨陣〉ことダンテツも、負けじと自薦する。
【 ミナモ 】
「いえいえ、ここは我らにお任せいただきたいですわねっ! 千里の彼方まではるばるやってきたというのに、さしたる戦いもなしでは、味気ないにもほどがありますものっ!」
そう主張するのは〈神弓姫〉こと翠・ミナモ、同盟軍たる岳南軍を率いる将である。
【 グンム 】
「ふむ……そうだな」
これまで、戦いらしい戦いがなかったこともあり、将たちは武功に飢えている。
その意味でも、あの城を血祭りに上げるのは、悪い手ではないと思われた。
グンムが思案しているところへ、斥候が戻ってくる。
【 斥候 】
「申し上げますっ! かの城に、立て籠っているのは――」
鶴風城の城門に、軍旗が翻っている。
そこに記されているのは、“凪”の文字。
【 ランブ 】
「――来たか」
城壁に立って、迫る軍勢を見下ろして呟くのは、〈双豪斧〉こと凪・ランブ。
【 ランブ 】
「見たこともない大軍だな。二十万……というのも、さほど大げさではないようだ」
【 カズサ 】
「ええ、相手にとって不足なし! というものです!」
そう大言壮語するのは、〈緋閃剣〉閃・カズサ。
【 ランブ 】
「頼もしいが……我らの役目を忘れぬようにな、カズサ殿」
【 カズサ 】
「ええ、むろんです、ランブ大姐! ですが……」
【 カズサ 】
「あわよくば、敵将のひとりやふたり、討ち取っても構わないでしょうっ?」
【 ランブ 】
「まあ、ほどほどに頼む」
苦笑しつつ、ランブは帝都に目を向ける。
【 ランブ 】
(陛下、どうか、ご無事で――)
【 グンム 】
「ほう、ランブ殿が……」
【 ダンテツ 】
「…………っ」
【 グンロウ 】
「おおっ、世に名高き〈双豪斧〉かっ! ぜひとも、手合わせ願いたいものっ!」
【 ミナモ 】
「聞いたことがありますわ……なかなかの遣い手とか! 城攻めの役は、ぜひわたくしにこそっ!」
【 グンム 】
「……よかろう。ならば、兵を割き、かの小城を踏みつぶすとしよう――者ども、手柄を立てよ!」
【 将兵 】
『おおおおっ……!!』
大地を揺るがすような鬨の声が、響き渡る。
のちの世に〈鶴風の戦い〉と呼ばれることになる熾烈な攻防が、ここに巻き起ころうとしているのだった――
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