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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
352/421

◆◆◆◆ 9-52 鶴風の戦い(1) ◆◆◆◆

 大宙暦3133年(帝ヨスガ2年)、仲秋の月(8月)、10日――


 帝都〈万寿世春ばんじゅせいしゅん〉の間近に、レイ・グンムひきいる大軍勢が押し寄せていた。

 その数、およそ十五万。

 一方、帝都に残存する戦力は、多く見ても二万あまり……

 常識的に考えて、とうてい勝負になるものではない。

 実際、天子たるエン・ヨスガも、早々に帝都からの脱出を宣言していた。

 ほとんどの者が、


 ――戦いらしい戦いには、ならないだろう。


 と、考えていた。


 しかし、事態は思いがけない方向へ進むこととなる――




【 グンム 】

「――あれか?」


【 ダンテツ 】

「はい、〈鶴風かくふう城〉です」


 グンムに問われたセキ・ダンテツが指差した先には、小高い丘に築かれた城がある。

 グンムの軍が迫る中、帝都近辺のほとんどの城邑じょうゆうは降伏を申し出てきているが、唯一、かの鶴風城だけはそうしていない。

 *城邑……城壁で囲まれた町の意。


 いや、それどころか、


【 ダンテツ 】

「数千の兵が立て籠り、我が軍への抗戦に備えているとか……現在、斥候せっこうを出して探っておりますが」

 *斥候……ここでは偵察兵の意。


【 グンム 】

「ふむ……城民を兵としているということか?」


【 ダンテツ 】

「いえ、それが……むしろ、民は他のまちへと避難させた模様です」


【 グンム 】

「ほう……? だとしたら、その数千の兵とやらは、いったいどこから降って湧いたのだ?」


【 ダンテツ 】

「さて……義勇兵が集まった、といった可能性もなきにしもあらずですが。あるいは、流民るみんのたぐいを掻き集めたか……?」


【 グンム 】

「どうあれ、捨て置くわけにはいくまいな」


 あの規模の城であれば、本来、無視しても差し支えはない。

 だが、公然と抵抗を示す相手を見逃せば、軍の威信にかかわることになろう。


【 グンロウ 】

「将軍っ! どうか、この俺にお任せをっ! あんな小城、軽々と踏みつぶしてご覧に入れましょうっ!」


 グンムの弟にして軍中きっての猛将、〈突先鋒とつせんぽう〉ことレイ・グンムが名乗りをあげる。


【 ダンテツ 】

「いや、ここは私に――ぜひ、名誉挽回の機会をお与えいただきたい」


 〈鋼骨陣こうこつじん〉ことダンテツも、負けじと自薦する。


【 ミナモ 】

「いえいえ、ここは我らにお任せいただきたいですわねっ! 千里の彼方まではるばるやってきたというのに、さしたる戦いもなしでは、味気ないにもほどがありますものっ!」


 そう主張するのは〈神弓姫しんきゅうき〉ことスイ・ミナモ、同盟軍たる岳南がくなん軍を率いる将である。


【 グンム 】

「ふむ……そうだな」


 これまで、戦いらしい戦いがなかったこともあり、将たちは武功に飢えている。

 その意味でも、あの城を血祭りに上げるのは、悪い手ではないと思われた。

 グンムが思案しているところへ、斥候が戻ってくる。


【 斥候 】

「申し上げますっ! かの城に、立て籠っているのは――」




 鶴風城の城門に、軍旗がひるがえっている。

 そこに記されているのは、“ナギ”の文字。


【 ランブ 】

「――来たか」


 城壁に立って、迫る軍勢を見下ろして呟くのは、〈双豪斧そうごうふ〉ことナギ・ランブ。


【 ランブ 】

「見たこともない大軍だな。二十万……というのも、さほど大げさではないようだ」


【 カズサ 】

「ええ、相手にとって不足なし! というものです!」


 そう大言壮語たいげんそうごするのは、〈緋閃剣ひせんけんセン・カズサ。


【 ランブ 】

「頼もしいが……我らの役目を忘れぬようにな、カズサ殿」


【 カズサ 】

「ええ、むろんです、ランブ大姐おねえさま! ですが……」


【 カズサ 】

「あわよくば、敵将のひとりやふたり、討ち取っても構わないでしょうっ?」


【 ランブ 】

「まあ、ほどほどに頼む」


 苦笑しつつ、ランブは帝都に目を向ける。


【 ランブ 】

(陛下、どうか、ご無事で――)




【 グンム 】

「ほう、ランブ殿が……」


【 ダンテツ 】

「…………っ」


【 グンロウ 】

「おおっ、世に名高き〈双豪斧そうごうふ〉かっ! ぜひとも、手合わせ願いたいものっ!」


【 ミナモ 】

「聞いたことがありますわ……なかなかの遣い手とか! 城攻めの役は、ぜひわたくしにこそっ!」


【 グンム 】

「……よかろう。ならば、兵を割き、かの小城を踏みつぶすとしよう――者ども、手柄を立てよ!」


【 将兵 】

『おおおおっ……!!』


 大地を揺るがすようなときの声が、響き渡る。


 のちの世に〈鶴風かくふうの戦い〉と呼ばれることになる熾烈しれつな攻防が、ここに巻き起ころうとしているのだった――

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