◆◆◆◆ 9-36 詰問 ◆◆◆◆
【 グンム 】
「――これはどういうことだ? 説明していただこう、楽老師」
【 シュレイ 】
「……っ、はっ……」
グンムの幕舎に呼び出されたシュレイは、無言で平伏していた。
【 グンム 】
「私に黙って、かの者たちを追わせたあげく、タシギ卿は手傷を負い、シンセ殿にいたっては深手という。いったい、どういうつもりだ?」
【 シュレイ 】
「はっ……申し訳ございません、あの者たちを生かして帰すべきではない、と判断いたしまして……」
【 グンム 】
「それで、私の命に逆らった――ということだな?」
シュレイと二人きりの場合、ふだんならグンムはざっくばらんな態度で接するが、今は峻烈そのものだった。
*峻烈……激しく、厳しいの意。
【 シュレイ 】
「……面目ございません」
【 グンム 】
「…………」
【 グンム 】
「軍法違反は厳罰だ。貴公の身を軍政司に引き渡し、裁きを待つ――」
*軍政司……ここでは軍隊内の賞罰係の意。
【 シュレイ 】
「…………っ」
【 グンム 】
「――と、言いたいところだが、貴公は軍属ではない。ゆえに、今回は罪には問うまい」
シュレイは立場的にはあくまでグンムの客分であり、部下ではない。
【 グンム 】
「だが、勝手な行動を取った咎は見過ごせぬ。しばし、謹慎してもらおう。話は以上だ」
【 シュレイ 】
「……はっ……」
シュレイは深々と頭を下げる。
【 グンム 】
「……シンセ殿の、容体は?」
やや声音を和らげて、尋ねるグンム。
【 シュレイ 】
「は……碧師弟の手当てのおかげで、幸い、命に別状はないとのこと」
【 グンム 】
「そいつは、なによりだな。……なあ老師、これに懲りたら、独断専行は勘弁してくれ。俺たちは、同志だろう?」
*独断専行……他人の意見を無視して、自分の判断で行動するの意。
【 シュレイ 】
「ははっ……まことに、かたじけない限りです」
【 シュレイ 】
「しかしながら――」
と、顔を上げて。
【 シュレイ 】
「今後も、時には将軍の意に沿わぬことを、あえて行うことがあるやもしれません。それが、将軍の大業のためであれば」
【 グンム 】
「…………」
【 シュレイ 】
「…………」
しばし、両者は睨み合っていたが……
【 グンム 】
「……シンセ殿に、お大事にと伝えてくれ。ああ、タシギ卿にもな」
【 シュレイ 】
「は――」
一礼して、シュレイは幕舎を出ていった。
【 グンム 】
(……やれやれだな)
勝手な男だ、とグンムは内心呆れつつも、
【 グンム 】
(だが、あれくらいでなきゃあ、つまらんがね)
ダンテツもそうだが、有能な人材ほど、とかく扱いづらいものと相場が決まっているのだ。
【 グンム 】
(それにしても……)
たった三人で、タシギとその手下、さらにシンセと神鴉兵を返り討ちにするとは……
【 グンム 】
(あの連中……俺の見立て以上に、大物だったということか?)
人を見る目はあるつもりだが、もとより万全ではない。
今回に関していえば、シュレイの目が正しかった……とも、いえる。
【 グンム 】
(ま、俺ひとりでできることなんて、たかが知れてるからな)
他人を、いかに使いこなすか……それが肝要。
【 グンム 】
(なにせ、これからは大仕事だからな)
グンムは、机の上の地図に目をやった。
今や、帝都〈万寿世春〉は目と鼻の先に迫っている。
【 グンム 】
「さて……どう出るかな、あの天子さまは」
玉座で退屈そうにしていた小娘の様子が思い浮かぶ。
だが、それが真の姿でなかったことは、もはや明白だ。
【 グンム 】
(おとなしく、ご退場願えればいいが……)
おそらく、そうはなるまいな――と、グンムは身を引き締めるのだった。
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