◆◆◆◆ 9-32 車輪 ◆◆◆◆
その頃、先行したホノカナたちは――
ドドッ……ドドッ……!
【 ホノカナ 】
「……う、わっ……!」
【 セイレン 】
「ひぇっ……うううっ……!」
闇に包まれた森の中を、まっしぐらに突き進んでいた。
ゼンキョクの言ったとおり、飛鷹馬は木に激突することもなく、軽快に走り続けている。
ホノカナたちは鬣にしがみつき、振り落とされまいと必死だった。
【 ホノカナ 】
「ゼンキョクさんっ……大丈夫、でしょうかっ?」
背後をチラリと見ながら、ホノカナが案じる。
【 セイレン 】
「心配はっ……いりませんともっ! なにせ、あの御仁は――」
と、セイレンがなにやら言いかけたとき……
【 ホノカナ 】
「っ! あれはっ……」
ボワッ……ボウッ……!
背後の闇に、いくつもの光が灯った。
そして、恐ろしい速度で追いかけてくる――
【 ホノカナ 】
「なにあれっ……鬼火っ!?」
【 セイレン 】
「い、いえっ……違いますっ! あれはっ……」
シャリッ……シャランッ……
【 ホノカナ 】
「…………っ!?」
なにかが回転するような音が近づいてくる。
【 ???? 】
「我らが主に、仇なす者は――」
【 ???? 】
「ことごとく、討つべし――」
迫ってくるのは、黒ずくめの兵たちだった。
その両足に燃える車輪を装着しており、空中を滑るようにして接近してくるのだ。
【 セイレン 】
「あ、あれは、もしやっ……!」
【 ホノカナ 】
「知ってるんですか、セイレンさん!?」
【 セイレン 】
「いえ、全然知りませんっ! でも、なんというか……ものすごく危険なのは、わかりますねっ!」
【 ホノカナ 】
「それはわたしにだって一目瞭然ですけどぉ!?」
これすなわち、グンム軍の方術部隊〈神鴉兵〉たちだったが、ホノカナたちは知る由もない。
【 黒ずくめの兵たち 】
『――――!』
短槍を手にした兵たちが、一気に距離を詰めてくる……!
【 セイレン 】
「あ、あわわっ!? 串刺しは嫌ぁ~~っ!」
【 ホノカナ 】
「セイレンさんっ、なにかこうっ……足止めに使える方術とか、ないんですかっ!?」
【 セイレン 】
「……おおっ! そ、そうでしたね! ええっ、もちろん準備してありますともっ!」
【 ホノカナ 】
「今、忘れてませんでしたっ!?」
【 セイレン 】
「そんなことはありませんともっ……えーっと、えーっと……そう、こういうときは――“縛”ッ!」
セイレンが杖を掲げ、兵へと向ける――
――バリバリバリッ!
【 黒ずくめの兵 】
「ぐっ……!?」
電撃がほとばしり、縄のごとく先頭にいた兵にからみついて、その場に釘付けとする。
この術は、先日セイレンの弟子〈青・ギョクレン〉が用いていたものに他ならない。
【 ホノカナ 】
「すごいっ……! やればできるじゃないですか、セイレンさんっ!」
【 セイレン 】
「わ、わはははっ! そうでしょうっ! ギョクレンの術をパク……いえっ、見よう見まねで使っただけですがねっ!」
【 ホノカナ 】
「…………うん、すごいですっ!」
弟子の術を真似るというのはどうなのか……と思いつつ、ホノカナは重ねて称賛した。
【 他の黒ずくめの兵 】
「味な真似を……散開せよ!」
【 他の黒ずくめの兵たち 】
『おお――』
一網打尽にされるのを避けるべく、互いの間合いを空けつつ、迫ってくる兵たち。
【 ホノカナ 】
「…………!」
【 セイレン 】
「ホノカナ殿! 先に行ってくださいっ!」
【 ホノカナ 】
「えっ? セイレンさん、でもっ……」
【 セイレン 】
「なぁに――私はけっこうしぶといので、ご心配なく! それに、なにより……」
【 セイレン 】
「この雷、いまいち命中精度が怪しくてですね……間違ってホノカナ殿に当ててしまうかもしれませんので!」
【 ホノカナ 】
「……っ、セイレンさん、どうか、ご無事でっ!」
ホノカナは一礼して、さらに馬を加速させた。
【 セイレン 】
「これでよし……さぁ、まとめてかかってきなさいっ! この天地開闢以来の大軍師にして、世に比類なき方術使いたるこの私が――」
*天地開闢……天と地が分かれるの意、世界創造。
【 黒ずくめの兵たち 】
『――――っ』
【 セイレン 】
「って、本当に一斉にかかってくるのはズルいっ……おわぁあああぁ~~~~っ!?」
――ドオオォォーンッ!!
深夜の森に、轟音が鳴り響いた――
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