表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
329/421

◆◆◆◆ 9-29 逃亡 ◆◆◆◆

【 タシギ 】

「ちっ、なんだアイツらっ? 速いっ……!」


 黒鹿毛くろかげの馬を駆りつつ、タシギは舌打ちした。


【 タシギの部下 】

「姐御、ありゃあ、岳南がくなん飛鷹ひよう馬ですぜ! 速いわけだっ」


【 タシギ 】

「そういうことかよっ……! あのお嬢さまの仕業かっ? 余計な真似をしてくれるっ!」


 騎馬の民である飛鷹の者が駆る馬は、ちゅうのそれとは比較にならないほど強靭きょうじんで、速度も上である。


【 タシギ 】

「フン――だからって、おめおめ逃がすものかよっ! おい、弓をよこせっ!」


【 タシギの部下 】

「へいっ……!」


【 タシギ 】

「このアタシから――」


 部下から受け取った弓に矢をつがえ、引き絞る。


【 タシギ 】

「――逃げられると、思うなよッ!」




【 ホノカナ 】

「……っ、すごい、どんどん、引き離してますっ!」


【 セイレン 】

「おおおっ、姫将軍さま、さまさまですなっ!」


【 ゼンキョク 】

「さて、このまま、逃げ切れるといいのですが――」


 ――ヒュンッ!!


【 替え馬 】

「ヒィイイィンッ――!!」


 ドドオォッ!!


【 ホノカナ 】

「ああああっ!?」


【 セイレン 】

「ひぇええっ!?」


 連れていた替え馬の一頭が足に矢を受け、たまらず横転していた。

 三人はスイ・ミナモから礼として譲り受けた飛鷹馬に騎乗し、これまで乗ってきた馬は替え馬として連れていたのである。


【 ゼンキョク 】

「この距離、しかもこの暗さで当ててくる……腕も立つ上に夜目も利くとは、なかなか厄介ですね」


【 ホノカナ 】

「かっ、感心してる場合じゃっ……!」


【 セイレン 】

「うううっ、串刺し刑も嫌ぁあぁ~っ!」


【 ゼンキョク 】

「前方に森が見えます。あそこを抜けましょう。矢からも逃れやすい」


【 ホノカナ 】

「で、でもっ、木にぶつかったりするんじゃ……!?」


【 ゼンキョク 】

「飛鷹馬は利口です。無理に操ろうとせず、馬に身を任せておけば問題ありません」


【 ホノカナ 】

「……っ、わ、わかりましたっ……」


【 ゼンキョク 】

「では――セイレン殿、副頭目をお任せします」


 先頭を走っていたゼンキョクが、最後尾に下がる。


【 ホノカナ 】

「えっ!? アン老師せんせい……!?」


【 ゼンキョク 】

殿しんがりは、私が務めます。おふたりは、どうかお先に」


【 ホノカナ 】

「そ、そんなっ……!?」


【 ゼンキョク 】

「あなたは、あの御方のもとに帰らねばなりません――そう、いかなる犠牲を払おうとも」


【 ホノカナ 】

「……っ、でもっ……」


【 セイレン 】

「わっかりましたぁっ! ゼンキョク殿、ご武運をっ! あなたのことは、きっと忘れませんのでっ! それではっ!!」


 ドドドドッ!


 ためらうことなく、まっしぐらに森へ向かうセイレン。


【 ホノカナ 】

「ちょっ……!?」


【 ゼンキョク 】

「いえ、あれで正解なのです――副頭目、今後もあなたは、幾度となく似た場面に出くわすでしょう」


【 ホノカナ 】

「…………っ」


【 ゼンキョク 】

「こうしたことに、慣れてはいけない。しかし……迷ってもいけません」


【 ゼンキョク 】

「たやすいことではありませんが……これが、あなたの選んだ道なのです」


【 ホノカナ 】

「……っ、絶対、後から、来てくださいっ……!」


【 ゼンキョク 】

「ええ――もちろんですとも。まだまだ、やり残したことがありますので」


 アン・ゼンキョクは、微笑をうかべた。




【 タシギ 】

「フン……森に逃げ込むつもりかっ? 小賢しいっ……追いかけるよッ!」


【 タシギの部下 】

「いやいや、俺たち、姐御みたいに夜目はきかねえですよっ……!」


 今、タシギが引きつれているのは、軍人とは名ばかりの無頼の徒である。

 汚れ仕事を担うにあたり、タシギが飼っている私兵だ。

 暗殺者上がりの彼女と違い、得意なのは略奪、放火、殺戮といった荒事あらごとばかりという連中であった。


【 タシギ 】

「ゴチャゴチャうるさいんだよッ! せいぜい、木に当たってくたばらないように祈るんだねっ! それとも、今、殺されたいワケ?」


【 タシギの部下たち 】

『ひいいっ……!』


 部下たちは戦慄し、タシギに従って逃亡者たちを追っていく――

ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ