◆◆◆◆ 9-24 偽装 ◆◆◆◆
【 ホノカナ 】
「――――っ」
シュレイの言葉を聞いたホノカナは、チラリとセイレンの様子を見た。
胡乱な方士というのが、彼女のことを指しているのは、誰の目にも明らかだったからである。
しかし……
【 セイレン 】
「…………」
セイレンはまるで驚いた風もなく、平然として落ち着き払っている。
【 ホノカナ 】
(……っ、さすがに、肝が据わってるんだっ……)
と、感心したのも束の間。
【 セイレン 】
「(……ホノカナ殿、先ほどの胡乱な方士というのは、いったい、誰のことでしょうね?)」
【 ホノカナ 】
「…………」
どうやら、己がうさんくさい……などという自覚はまったくないようだった。
【 セイレン 】
「(……っ、それにしてもホノカナ殿、その顔っ……本当に真ん丸ですね……ぷふっ)」
【 ホノカナ 】
「(わ、笑わないでください……!)」
そう、ホノカナの顔は今、ふだんよりずっと丸く、ふくよかになっている。
ミナモには虫歯で顔が腫れた……と説明したが、実際はそうではない。
先ほどゼンキョクが打った鍼によって一時的に血流を抑制され、全体的に浮腫んでいるのである。
グンムらに顔を見られてもすぐにはバレないための、窮余の一策であった。
*窮余……困った末の苦し紛れの意。
【 ホノカナ 】
(これって、ちゃんと元通りになるんだよね……!?)
年頃の乙女としては、気になってしまうのも無理はなかった。
【 ホノカナ 】
(……って、それはともかくっ……)
ミズキやランブたちが罪に問われると聞いて、ホノカナはいてもたってもいられなくなりつつあった。
【 ホノカナ 】
(うう……でもっ、ここで口出ししちゃったら、台無しだし……)
葛藤しつつ、チラチラとグンムたちの様子をうかがう。
【 ホノカナ 】
(……っ、この前会ったときとは、全然違うっ……)
それが、今のグンムに対するホノカナの印象であった。
かつて酒楼で対面したときは、気のいい兄さん、という風情だったが、現在の彼は……
【 ホノカナ 】
(当たり前だけどっ……何万もの軍を率いる将軍、なんだ)
口調や仕草は穏やかながらも、そこかしこに殺伐とした気配を感じるのは、数ヶ月に渡って戦場に身を置いてきたゆえだろうか。
【 ホノカナ 】
(この人は……本当にっ……)
帝都を落とし、新たな覇者となるつもりなのだろうか?
直接、問いただしたいところだけれども……そうもいかない。
【 ゼンキョク 】
「……なるほど。閣下のお考え、しかと承知いたしました」
ホノカナの思いをよそに、ゼンキョクはうやうやしく一礼する。
【 ゼンキョク 】
「浅学非才の身ではございますが、ぜひ閣下の大業をお助けできればと存じます」
【 グンム 】
「そうか、よろしく頼む」
と、話がまとまりそうなところだったが……
【 セイレン 】
「それはそうと――もっと気になってることがあるんですよねぇ」
いきなり、セイレンが口を開いた。
【 ホノカナ 】
「(えっ!?)」
【 ゼンキョク 】
「――――っ」
【 ホノカナ 】
「(セイレンさん!? 黙ってる手はずだったのに……!)」
焦るホノカナの気持ちも知らず、セイレンは言葉を続ける。
【 セイレン 】
「将軍は、国母さまから密旨を授かり、朝廷を正そうとしているとのことですが――その密旨っていうのは、本物なんですかね?」
【 一同 】
『――――っ』
和みつつあったその場の空気が、一気に緊迫する――
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