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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
32/421

◆◆◆◆ 3-7 学士シュレイ ◆◆◆◆

 酒宴のあと。

 タイシンはひとり、酔い醒ましに庭へと出ていた。


【 シュレイ 】

「――ショウ大人、いかがなさいました?」


【 タイシン 】

「おや、これは……ガク老師」


 先ほど挨拶を交わした学士シュレイが、そこにいた。


【 タイシン 】

「いささか飲みすぎたようで……酔いを醒まそうと思いましてね」


【 シュレイ 】

「はは、それは私も同じことですよ」


 そう言いつつ、月光に照らされた青年の顔には赤みはなく、透明なほどに青白い。


【 タイシン 】

「あなたは学士とのことですが……方術のたしなみもおありのようですね」


【 シュレイ 】

「これは……お気づきになりましたか」


【 タイシン 】

「先ほどの、両人の得物を鎖で絡め取った妙技――筆と墨を愛する文士のものとは、とうてい思えませんでした」


【 シュレイ 】

「いやはや、お恥ずかしい。以前、いささか神仙に憧れ、方術を学んだことがございました」


【 シュレイ 】

「しかしいかんせん俗気が抜けず、諦めてこうして地上に舞い戻ってきた次第です」


【 タイシン 】

「ほう……」


 やはり、ただの書生ではないらしい。


【 シュレイ 】

ショウ大人は、神仙の道にも明るいようで……」


【 タイシン 】

「いえいえ。商売柄、いろいろな人々に会ってきただけですよ」


【 シュレイ 】

「こちらには、商いのついでに来られたとか?」


【 タイシン 】

「ええ。天下をさすらい、商売のタネを探すのが、商人のなりわいですので」


【 シュレイ 】

「して、お目当てのものは見つかりましたかな」


【 タイシン 】

「さて、それは――」


【 シュレイ 】

「…………」


 シュレイは一歩距離を縮め、


【 シュレイ 】

「すでに、見つけておられるのでは?」


【 タイシン 】

「おや、どうしてそう思われるのです?」


【 シュレイ 】

「率直に申し上げましょう」


 さらに一歩つめて。


【 シュレイ 】

「貴方のお目当ては――――レイ将軍、その人では?」


【 タイシン 】

「ふふ」


 タイシンは笑って、否定も肯定もしなかった。


【 タイシン 】

「では仮に、私のお目当てが将軍だとしましょう。なぜ、あの御仁を求めているとお思いです?」


【 シュレイ 】

「もとより、用心棒――ではないでしょうな。まして、商いの手伝いをさせる心づもりでもありますまい」


【 タイシン 】

「ふふ、たしかにあの御仁ならば、さぞかし有能な部下になってくれましょうが……」


【 タイシン 】

「しかしそれは、宝の持ち腐れというもの。牛刀をもって鶏をくがごときでしょう」


【 シュレイ 】

「さよう、あの方はそもそも、このような片田舎で朽ち果てるような器ではありません」


【 タイシン 】

「それに関しては、私も同じ思いですね」


 タイシンもうなずく。


【 シュレイ 】

「もし仮にですが……」


 と、シュレイが続ける。


【 シュレイ 】

「あの方が、ふたたび世に出るとしたら――それはどのような形となりましょう?」


【 タイシン 】

「さてさて……私は一介の商人にすぎません。そのようなことは、ガク老師の得意分野では?」


【 シュレイ 】

「さよう、されば仮説に仮説をかさねて、戯れに申し上げてみましょう」


 と、シュレイは指を折りながら、


【 シュレイ 】

「ひとつ、乱れた世を正すべく、自立して天下に檄を飛ばし、みずから至尊の座を狙う覇者の道――」


【 タイシン 】

「ほほう、それはまた勇壮な……その他には?」


【 シュレイ 】

「ふたつ、このままあえて時勢を見極め、なにもせずじっと待ち続ける隠忍の道――」


【 タイシン 】

「ふむふむ、慎重なあの方ならありそうなことです。それ以外には?」


【 シュレイ 】

「みっつ、あえて虎口に飛び込み、死中に活を求める修羅の道――と、こんなところでしょう」


【 タイシン 】

「ほほう。覇者、隠忍、修羅……老師ならば、そのいずれの道をお薦めするので?」


【 シュレイ 】

「それは、もちろん――」


 月明かりの下、学士の目が妖しくきらめいた。


【 シュレイ 】

「――修羅の道をおいて、他にございません」


 そう言って微笑むシュレイを、


【 タイシン 】

(抜き身の刃のような男だ)


 内心で、タイシンはそう思った。

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