◆◆◆◆ 9-12 老師の一計 ◆◆◆◆
【 ミナモ 】
「これで万全ですわね! さぁ、さっそく参りますわよっ!」
意気揚々、ばかでかい包丁を振り回すミナモ。
その手並みは、素人目にもかなりのものと見える。
【 サノウ 】
「うぅ……ボク、道具がないとあんまり術使えないんですけどぉ……」
所持品を奪われているため、サノウはいかにも心細そうであった。
【 ホノカナ 】
「あの……どうするつもりなんですか?」
【 ミナモ 】
「もちろん、地下室から出て、あの酒屋をぶった切ってやるのですわっ!」
【 ゼンキョク 】
「まあ、お待ちください。相手は一人ではありません。他にも手下がいるはずです」
【 ホノカナ 】
「えっ? どうしてわかるんですか?」
【 ゼンキョク 】
「私たちをここまで運んだ連中がいるのです。三人はいたでしょうか。今もいるかどうかは、定かではありませんが……」
【 ホノカナ 】
「ええっ? でも……老師も、眠らされてたんじゃ?」
【 ゼンキョク 】
「例の料理、一口食べて怪しいと気づいたので、痺れたふりをしていたのですよ。旅先では、まれにあることですからね」
【 ホノカナ 】
「な、なるほど……」
そんな危険性をまるで考慮せず、パクパクと食べてしまった自分の無謀さが恥ずかしくなる。
いくらセイレンが美味しそうに食べていたからといっても。
【 ミナモ 】
「笑止! ごろつきの三人や四人、まるで問題になりませんわ! まとめてブツ切りにしてあげますともっ!」
【 ホノカナ 】
「…………」
【 ホノカナ 】
「(あの、晏老師――)」
ふと、小声で囁く。
【 ゼンキョク 】
「(……どうされました?)」
【 ホノカナ 】
「(あの店主たち……なんとか、助けられないでしょうか?)」
【 ゼンキョク 】
「(それは……)」
ホノカナの申し出に、形のいい眉をひそめてみせるゼンキョク。
【 ゼンキョク 】
「(お優しいのは結構ですが、同情をかけるような輩ではありますまい)」
【 ホノカナ 】
「(いえ、そういうのじゃないんですっ。……かくかくしかじかで……)」
【 ゼンキョク 】
「(ふむ……なるほど、そういうことですか)」
【 ゼンキョク 】
「(それなら……こういう手では?)」
【 ホノカナ 】
「(ふむふむ……)」
【 ミナモ 】
「なにをぶつくさと言っていますのっ? さぁ、参りますわよっ!」
と、今にも地下室から飛び出そうという勢いのミナモ。
【 ゼンキョク 】
「――少々お待ちください。ひとつ、提案があるのですが」
【 ミナモ 】
「と、いうと?」
【 ゼンキョク 】
「――あの店主どもは、なるほど許しがたい悪党ではあります」
【 ゼンキョク 】
「ですが、一刀両断にするよりは、お縄にして法の裁きを受けさせるべきかと」
【 ミナモ 】
「はぁ? どうしてそんなまだるっこしい真似を……!」
【 ゼンキョク 】
「嶺将軍は、これより新たな秩序を築かんとする御方……ならば、きちんと法にのっとった処罰を与えるべきではありますまいか」
【 ミナモ 】
「む、むむ……小難しいことを仰るわね! まるで嶺将軍の側にくっついているイケ好かない軍師気取りの男のようなっ……」
【 サノウ 】
「そ、それ、楽師兄のことですかぁ? た、確かに、そんな感じですけど……くふ、ふふふっ……」
【 ゼンキョク 】
「ともあれ、問答無用で片付けるよりは、一網打尽とし、しかるべき罪に問うべきかと」
【 ミナモ 】
「むむむ……そうは仰いますけれど、上に四人ほどいるのでしょう? わたくし、死なない程度に手加減するなど無理でしてよ!」
【 ゼンキョク 】
「ええ、そこで――」
ゼンキョクは、考えを話しはじめた……
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