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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
308/421

◆◆◆◆ 9-8 美酒 ◆◆◆◆

 一方その頃、街道をゆく人馬の影、三つ。


【 ホノカナ 】

「はぁっ、ふぅっ……ふぅうっ……」


【 ゼンキョク 】

「副頭目――お疲れのようですね」


【 ホノカナ 】

「い、いえっ、大丈夫ですっ!」


 みやこを出て数日、一目散に馬を走らせてきたが、さすがに疲労の色がうかがえる。


【 ゼンキョク 】

「無理は禁物です。少し、休憩するとしましょうか」


【 セイレン 】

「…………」


【 ホノカナ 】

「で、でもっ、そんなに悠長にしてるわけにはっ……そうですよね、セイレンさんっ!」


【 セイレン 】

「…………(ふわぁ~)」


【 ホノカナ 】

「馬上で失神してるぅー!?」


【 ゼンキョク 】

「……やはり、休憩が必要なようですね。いい具合に、居酒屋も見えますし」


 見れば、街道沿いに飲み屋が一見、ぽつんと建っている。

 一同は、そこで一息つくことにした。




【 セイレン 】

「おやじさん、とりあえず濁酒どぶろくお願いします! あと、肉のいいところを何切れか! ああ、ホノカナ殿は飲めないのでしたね? では酒ふたつにお茶を一つで! あと饅頭まんじゅうも!」


【 ホノカナ 】

「あっという間に元気になりましたね……」


【 ゼンキョク 】

「まあ、メリハリは大事ですので」


【 酒屋のおやじ 】

「お客さんがた、どちらに行かれるんで?」


 酒や茶を持ってきた店主が尋ねる。


【 セイレン 】

「ふふふ、よくぞ聞いてくれましたね! それはもちろん、叛乱軍――いったぁ!?」


 ブスリ、とセイレンの手にはりが刺さっていた。

 うかつなことは言うな――という、ゼンキョクからの無言の注意である。


【 セイレン 】

「あっ……でも気持ちいい……力が抜けていくぅ……んふぅん……」


【 ホノカナ 】

「あっ……え、ええっと、南の方に行くつもりなんです!」


【 酒屋のおやじ 】

「ほぉ、もしかして、レイ将軍の軍に参加されるんので?」


【 ホノカナ 】

「えっ? ええっと……」


【 ゼンキョク 】

「ほう、もうその噂が届いていましたか。私たちも、どうしたものかと迷っているところですが……そういった人は多いのですか?」


【 酒屋のおやじ 】

「ええ、あちこちから集まってるみたいですよ。レイ将軍に仕えれば食いっぱぐれはないし、恩賞も思いのままだ、ってね」


【 ゼンキョク 】

「ほほう、ずいぶんと人気なようだ」


【 酒屋のおやじ 】

「そりゃあ、前にみやこを出発してこのあたりを通ったときも、レイ将軍の軍隊はしっかりしてて、民百姓に迷惑をかけたりしなかったですしね」


【 ゼンキョク 】

「なんでも、今の天子を廃そうとしているそうですが……?」


【 酒屋のおやじ 】

「らしいですなあ。まあ、誰が天子さまになったところで、私どもの暮らしにはたいして関係ありませんがね」


【 ホノカナ 】

「…………」


【 酒屋のおやじ 】

「さぁ、できましたよ。どうぞどうぞ」


【 セイレン 】

「おおっ、美味しそうですねぇ~! いただきま~すっ!」


【 セイレン 】

「ん~、ちょっと味つけが濃い目ですね! でも疲れてるときはこれくらいのほうが……もぐもぐ、ゴクゴク!!」


【 ホノカナ 】

「……っ、いただきます……」


 と、ホノカナも出てきた料理に箸をつける。


【 ホノカナ 】

(……世間の人たちにとっては、ヨスガ姉さまよりレイ将軍の方が……?)


【 ゼンキョク 】

「――どうやら、相手は世論誘導も巧みなようです。厄介ですね」


【 ホノカナ 】

「でもっ、姉さまは何も悪いことはっ……」


【 ゼンキョク 】

「人は利によって動くものですからね。まあ、利のみで動くわけでもありませんが」


【 ホノカナ 】

「うう……納得いきません……もぐもぐっ……」


 釈然としないながらも、食欲は旺盛なホノカナであった。


【 ホノカナ 】

「これ美味しいですねっ、セイレンさん――」


【 セイレン 】

「…………」


【 ホノカナ 】

「ええー!? もう酔い潰れちゃったんですかぁ!?」


 ……と、ツッコミを入れたそばから。


【 ホノカナ 】

「……ん……なんだか……わたしも、すごく、眠くなって、きて……」


【 ゼンキョク 】

「…………」


【 ホノカナ 】

「ふぁ……あぁぁぁ……ん……」


 ……ドサッ……


 そのままホノカナも、卓の上に突っ伏し、寝息を立てはじめた――

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