◆◆◆◆ 9-2 問罪 ◆◆◆◆
一同が中庭に移ったところで……
【 シラクサ 】
「――より詳細な情報が、入ってまいりました」
と、〈我影也〉こと〈颯・シラクサ〉が姿を現した。
そこで、彼の口から語られたのは。
――宰相〈烙・レツドウ〉が急死。死因は落馬とされるが詳細は不明。
――その直後、レツドウの遺志を継いだと称する征南将軍〈嶺・グンム〉は、討伐対象だった元の巡察使〈翠・ヤクモ〉と独断で和睦を行った。
――さらには、皇太后〈煌・ランハ〉より授かったという密旨を披露し、その命を奉ずるという形で、目下、帝都〈万寿世春〉へと進撃中である――
【 ヨスガ 】
「その、密旨とやらは?」
【 シラクサ 】
「……は、こちらに写しが……」
差し出された紙を見て、ヨスガは顔をしかめた。
【 ヨスガ 】
「『天子ヨスガに、謀叛の兆しあり――』ときたか。フン、ほんの数日前までなら、ただの難癖にすぎなかったが……」
【 バイシ 】
「ほうほう……こりゃあ、嘘から出た実ってところだねえ」
【 ホノカナ 】
「こんな命令を、国母さまが……!?」
【 ミズキ 】
「ありえませんね。あの御方が、こんな他人任せな命を下すはずはありません。真っ赤な偽物でしょう」
【 ヨスガ 】
「で、あろう。しかし……」
【 ヨスガ 】
「現実には、我が武力を用いて国政を握り、国母さまを追い出したかのような状況になっておる。……誰かの描いた絵図に乗せられたかのようで、気に食わんな」
【 ホノカナ 】
「じゃあ、偽物だって証明できれば、嶺将軍も兵を止めてくれるんでしょうか……?」
【 ヨスガ 】
「それは期待できぬな。連中とて、これが偽物だということは、おそらく承知の上であろう」
【 バイシ 】
「さて、どうするね、お頭?」
【 ヨスガ 】
「フン、売られた喧嘩だ、買ってやろう――」
【 ヨスガ 】
「……と、言いたいところだが、そう簡単にはいくまい」
単純に兵力だけを考えても、現状ではとても正面から迎え撃てる状況ではない。
【 ヨスガ 】
「守りを固め、各地に檄を飛ばして兵を集めねばならぬが……グンムめのところへ、問罪の使者を送らねばならぬな」
【 バイシ 】
「まあ、あっちの腹を探る必要はあるだろうね。時間稼ぎができるなら、それに越したことはないが」
【 ランブ 】
「陛下、その使者、ぜひとも私に――」
【 ヨスガ 】
「むむ……グンムの知己である卿は、適役ではあるが」
【 ミズキ 】
「不肖、私にお任せいただければ――」
【 ヨスガ 】
「ふむ、それも一手だが……」
【 ホノカナ 】
「あ――あのっ! わたしに、行かせてもらえませんかっ……!」
【 ヨスガ 】
「……無理に副頭目ぶる必要はないのだぞ?」
【 ホノカナ 】
「そ、そういうことじゃありませんっ! 嶺将軍はっ、決して、ただの悪人ではないと思うのでっ……」
【 ヨスガ 】
「話せばわかる――とでも言うのではあるまいな?」
【 ホノカナ 】
「……そこまでは、思いません。でもっ……!」
【 ヨスガ 】
「――よかろう。ミズキやランブでは、相手も警戒するであろうからな。そなたなら、ちょうどよかろう」
【 ホノカナ 】
「あ、ありがとうございますっ!」
【 ホノカナ 】
「……あれっ? もしかして、わたしが頼りないところがいい、ってこと……?」
【 ミズキ 】
「しかし、さすがに彼女ひとりでは……」
【 ヨスガ 】
「そうだな、ここは――」
と、ヨスガが名を挙げようとした矢先。
【 ???? 】
「わはははは! お呼びのようですね! この! 私をっ!」
皆のよく知る高笑いが、真夜中の庭園に響いた――
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