◆◆◆◆ 3-5 猛勇と侠勇 ◆◆◆◆
巨漢の放った空を裂く痛烈な一撃がユイに迫る――
【 ユイ 】
「――おっとっ!」
真っ向から食らってはたまらぬと、ひらりと身をひるがえして躱すユイ。
【 タイシン 】
「ユイ――」
【 ユイ 】
「止めたって無駄だぜ、姐さん! このウドの大木に、口の利き方ってやつを教えてやらねぇとな!」
今度はこっちの番とばかりに、愛刀を閃かせ、目もくらむような高速の一撃を打ち込む――
【 大男 】
「――むうッ……!」
――――ガキイィンッ!
しかし相手もさるもの、この一閃を大刀の柄で受け止めた。
【 大男 】
「洒落た真似をッ!」
【 ユイ 】
「そっちこそなぁ!」
【 従者たち 】
「グンロウ様……!」
【 大男 】
「手出しは無用ッ! この小僧は――」
色めき立つ従者たちを一喝して、
【 大男 】
「――俺の、獲物だッッ!!」
【 ユイ 】
「…………っっ!!」
大刀と刀が、すさまじい勢いで繰り出され、火花を散らす。
【 タイシン 】
(ほう、〈風雲忍侠〉と互角に渡り合うとは――)
タイシンは止めるのも忘れ、思わず攻防に目を奪われる。
ユイと巨漢は、両者一歩も譲らず、幾合となく斬り結び、まるで決着がつきそうにもなかった。
【 ユイ 】
「ちっ、少しはやるな、デカブツ……!」
【 大男 】
「おのれッ……ちょこざいなッ!」
と、両雄がさらに熱くなってきた矢先――
――キイイィ……ン……
【 大男 】
「ぬうッ!? これは――」
【 ユイ 】
「鎖――だとっ?」
そう、いずこからか飛んできた鎖が、両者の武器を絡め合わせ、一寸たりとも動けぬように封じていたのである。
【 声 】
「そのあたりにされよ、グンロウ殿――」
響いたのは、城壁からの声。
そこには、優美な学士ふうの装束の男が立っていた。
その端正な顔立ちは、遠目には女と見まごうほどである。
【 グンロウ 】
「楽軍師かッ! 邪魔立てはよしてもらおうッ……!」
【 楽軍師 】
「そうは参りません――」
城壁の男は、優雅に一礼して。
【 楽軍師 】
「貴方が嶺将軍に罰されるところを見るのは、いささか忍びないので」
【 グンロウ 】
「なんだとッ……!?」
【 楽軍師 】
「ですが、急ぐこともなかったようですね。ちょうど、お越しです」
と、城門が開いて。
【 声 】
「――控えろ、グンロウ!」
よく通る声が響き渡るや否や、
【 グンロウ 】
「はッ――」
先ほどまでの威勢はどこへやら、巨漢はたちまち得物を下ろし、身をすくませる。
【 ユイ 】
「…………っ?」
事態がよく呑み込めぬまま、ユイは城門から出てきた馬上の人物に目を向ける。
【 タイシン 】
「――ご無沙汰しております、嶺将軍」
【 嶺将軍 】
「こちらこそ――タイシン殿」
タイシンに一礼したのは、三十過ぎとおぼしい精悍な顔つきの男だった。
引き締まった肢体には無駄な肉がなく、節制と鍛錬を欠かしていないのがひと目でわかる。
それでいて、こちらを威圧するような気配はまるで感じさせない。
【 ユイ 】
(そうか、この男が――)
【 グンム 】
「この〈嶺・グンム〉、ふたたびお目にかかれて喜びにたえませぬ――」
屈託のない笑顔をうかべるこの男こそ、嶺・グンム。
のちの史書に、〈宙帝国に引導を渡した男〉として記録される男、その人であった――――
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