◆◆◆◆ 8-68 邪徒 ◆◆◆◆
【 グンム 】
「まあしかし、神仙さまの登場には仰天したな。あれも、老師の仕込みだったのか?」
【 シュレイ 】
「いえ、まさか……私も、まったくもって寝耳に水でした。その前の銀司馬たちの喧嘩のくだりは、多少、手を回しもしましたが……」
【 グンム 】
「ははぁん……わざと一騒動起こして、それを収めることで、結束を固めようって腹だったわけか? あの罵声も段取り通りだったんだな」
【 シュレイ 】
「……あそこまで言われるとは、思っておりませんでしたが……」
【 グンム 】
「…………」
【 グンム 】
「……まあ、結果的にはうまくいったんだから、御の字だろ」
【 シュレイ 】
「ええ……私の小細工を一蹴するかのごとく、師父がおいでになられて……」
【 グンム 】
「しかし、あれは本当なのかね。幽聖岳が俺たちを支援してくれる、っていうのは?」
【 シュレイ 】
「師父が戯れ言を仰るとは思えません。……いや、よく口にしてはいましたが、それは弟子をいたぶる時だけでしたから」
【 グンム 】
「ふむ……心強いが、ま、あっちにもいろいろあるんだろうな」
【 シュレイ 】
「ええ。それから、師父が仰っていた、邪法の輩とやらですが……」
【 グンム 】
「明言はしてなかったが……そりゃ、どこの誰のことだ?」
【 シュレイ 】
「ひとつ考えられるのは……〈三貴〉教徒、でしょうか」
【 グンム 】
「ほう、烙宰相とも深く繋がっていたようだが」
【 シュレイ 】
「すでに宙国内にも信徒を増やしており、油断ならぬ存在です。他にも、怪しげな輩の名は聞きますが、やはり、一番に挙がるのは……」
【 グンム 】
「……〈五妖〉の残党、か」
【 シュレイ 】
「その公算は高いでしょう」
七年前、峰東の地を騒乱に陥れた〈五妖の乱〉。
その残党が地下に潜伏し、再起を図っているらしい……とは、世間でひそやかに語られている話である。
【 グンム 】
「……アイリがその類だと思われると、厄介なことになるなあ」
【 シュレイ 】
「…………」
グンムの情人である幽・アイリ。
先日、彼女が予言めいたことを口走った件について、シュレイはグンムに告げてはいない。
【 グンム 】
(アイリ殿は、五妖の関係者……どころか、五妖のひとりではないのか?)
そう疑いつつ、いまだにグンムに確かめてはいなかった。
そこは、超えてはならない一線であるように思われたからである。
【 シュレイ 】
(もしそうだとしたら、師父ほどの御方ならば、お見通しかもしれず……)
【 グンム 】
「ま、おとがめはなかったんだ。まずは、こっちのやるべきことを片付けないとな」
【 シュレイ 】
「は……」
さしあたり、今は詮索するのはやめておこう――と、シュレイは思った。
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