◆◆◆◆ 8-65 流渦深仙 ◆◆◆◆
【 ウツセ 】
「流渦深仙……!?」
辰・ウツセは、驚愕した。
流渦深仙といえば、世にいう三十六奇仙のひとり――
つまり、正真正銘、不老不死の神仙である。
この時代、本物の神仙を目にすることなど、滅多にありえないことであり、ウツセもまた初めてだった。
【 ウツセ 】
(見た目は、まるで、童女そのものだが……)
それでいて、神仙の世界に無縁なウツセでさえも、肌が粟立つほどの威圧感を覚えてしまう。
【 アグラニカ 】
「アレが噂の、宙の神仙っ! へええっ……すごい! どれほどの力があるのか、見当もつかないっ……なにより、めちゃくちゃ可愛いっ……!」
隣のアグラニカは、怯えや憧れや慈しみの混じったような様子で、目を輝かせている。
【 アグラニカ 】
「もうちょっと近くで見てもいいですかねっ……?」
【 ウツセ 】
「い、今は、お控えください……!」
今にも飛び出していきそうなアグラニカを抑える。
そんなウツセたちには構わず、
【 流渦深仙 】
「――貴殿らが義軍を起こし、天下を安んじようとしていると知り、その門出を言祝ぐべく、まかりこした――」
*言祝ぐ……祝いを述べる、祝福するの意。
おごそかにそう告げる流渦深仙は、威厳に満ちており、そのあどけない姿からは想像もつかない存在感を示している。
【 タシギ 】
「――――っ」
【 ヴァンドーラ 】
「むうっ……」
【 ミナモ 】
「幽聖岳のっ……神仙さまっ……!?」
先ほどまで争っていた面々も気圧され、ただただ、目を奪われている。
【 シュレイ 】
「――っ、ご無沙汰しております、師父……!」
ひざまずき、恐懼して拝礼するシュレイ。
*恐懼……大いに恐れ、かしこまるの意。
【 シュレイ 】
「よ、よもや、今生で再びお目にかかれる日が来ようとはっ……!」
【 ウツセ 】
(そうか、この神仙が、あの男の師――)
【 流渦深仙 】
「壮健そうで何よりである。……ずいぶんと、“活躍”しているようだな?」
【 シュレイ 】
「……っ、ははっ……」
どこか含みのある言葉を受けて、ますます深々と頭を下げている。
【 流渦深仙 】
「ところで、もうひとりの不肖の弟子の姿が見えぬが?」
【 シュレイ 】
「は――碧師弟は、仙薬の材料集めが忙しいなどと言って、いずこかへ姿を消しておりまして……」
【 流渦深仙 】
「……是非もなし」
流渦深仙は、溜め息をこぼした。
神仙ですらも、弟子の行状には悩まされるものであるらしい……と、ウツセは思った。
【 流渦深仙 】
「却説――」
と、流渦深仙はグンムに向き直る。
【 流渦深仙 】
「貴殿が――こたびの〈施主〉殿か?」
*施主……ここでは葬儀の当主の意。
【 グンム 】
「は――」
【 グンム 】
(こりゃあ参った……が、下手は打てねぇな)
その人間離れした気配に戸惑いを覚えつつも、ここで情けない姿を見せるわけにはいかない。
【 グンム 】
「――嶺・グンムと申します。大仙にお目にかかれ、望外の光栄でございます」
*大仙……神仙への尊称。
背筋を伸ばし、堂々と返答する。
【 流渦深仙 】
「ほう……なるほど。貴殿が……フム……そういうことか」
グンムをまじまじと見たあと、流渦深仙はなにかを察したかのように頷いてみせた。
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