◆◆◆◆ 8-64 流水 ◆◆◆◆
【 シュレイ 】
「されば、ここに誓約を行い、二心なきことを明らかにすべし――」
と、一同が誓いを結ぶ段となったが、なにしろ、つい先日までは敵同士が集まっている場である。
ただでさえ、到底、打ち解けたとは言い難い不穏な空気が漂っていた。
そんな中で……
【 タシギ 】
「――こんな連中と手を組むなんて、まっぴらなんだけどォ? いつ寝首を掻かれるか、わかりゃしないッ!」
【 ヴァンドーラ 】
「邪剣の使い手――其処許こそ、信用ならぬ輩よ。共に戦うなど、思いもよらぬ……!」
【 タシギ 】
「はァ? この野蛮人がッ! 偉そうに人間さまの言葉喋ってるんじゃねェよ! 獣は獣らしく鳴きやがれ!」
【 ヴァンドーラ 】
「それは当方の言い分なり――人面獣心の徒めが!」
官軍の将たる銀・タシギと、森羅軍の聡きヴァンドーラが、一触即発の有り様となっていた。
この両者は、先の烙宰相の末期のおり、すでに火花を散らしていたことは記憶に新しい。
【 官軍の将 】
「そうだっ、やっちまえっ! 蛮族なんぞに背中を預けられるかっ!」
【 森羅の将 】
「笑止千万なりッ……! ふぬけた男どもと死地を切り抜けることなどできようかッ!」
他の将も混じって、殺伐とした気配が漂う。
【 ミナモ 】
「ちょっと、あなたがたっ! 誓約の場で騒ぐなどっ、常識知らずにも程がありましてよっ! お控えなさいっ!」
翠・ヤクモが割って入る。
彼女はタシギとは何度も角を突き合わせているし、ヴァンドーラとは森羅の地で武を競った仲である。
【 タシギ 】
「すっこんでろッ! 親の七光りが取り柄のお嬢ちゃんごときがさァ!」
【 ヴァンドーラ 】
「この不埒者の妄言、許し難し――たとえ神弓姫の言葉とて、頷くこと、まかりならぬ!」
【 ミナモ 】
「うぬぬっ……なんてわからず屋ばかりですのっ! こうなったら、まとめてフン縛って簀巻きにして河にブッ叩き込んでしっかりきっかり猛省していただきますわっっ!!」
喧嘩を止めに入ったはずのミナモが、アッという間に逆上し、さらに状況は混乱をきたすという有り様。
【 南軍の将 】
「おおっ、お嬢、やっちまってくださいっ!」
【 官軍の将 】
「賊の娘ごときに、なにができるっ!」
【 森羅の将 】
「いかに勇士といえど、暴言は聞き捨てならず……!」
ますます収拾がつかなくなってくる。
【 シュレイ 】
「おのおのがた、どうか、お鎮まりあれ――」
と、シュレイが呼びかけるも、
【 タシギ 】
「やかましいんだよッ! 口先だけが取り柄のモヤシ野郎がよォッ!」
【 ヴァンドーラ 】
「妖言の使い手ごときに、貸す耳などさらさらなし――」
【 ミナモ 】
「ゴチャゴチャと小うるさいですわねっ! 顔をさらす度胸もない根性なし風情に、偉そうな口を利かれる筋合いなどちっとてもまったくございませんわっ! お黙りなさいっ!」
【 シュレイ 】
「…………っ」
痛快なほどに罵倒され、さすがに言葉を失うシュレイ。
と――そのとき。
【 ???? 】
『――さんざんな言われようだな、シュレイよ――』
突然、何者かの声が響くとともに、地が揺れたかと思うと
――ブシャアアアァッ!
【 シュレイ 】
「……っ! これはっ――」
突然、地面が割れて、巨大な水柱が立ち、周囲を水浸しとする。
【 タシギ 】
「うぶぅっ!? な、なんだ……コイツはッ!?」
【 ヴァンドーラ 】
「陛下の術っ……? 否、これはっ――ごぼぉおっ!?」
言い争っていた連中には、ことさら大量の水が浴びせられている。
【 ミナモ 】
「んぶぶっ!? あ、あれはっ……!?」
水柱の上に、方士風の姿の娘が立っていた。
一見すれば可憐な童女のようであるが、獣めいた耳や尾が生えており、只者でないのは明らかだ。
【 ???? 】
『血の気が多いのは結構だが――仲間割れはほどほどにしておくがよかろう』
【 シュレイ 】
「――っ! ま、まさか……師父!?」
【 グンム 】
「師父? では、この御仁は――」
【 小娘 】
「――お初にお目にかかる」
水柱が徐々に収まってきて、小娘の声が響く。
【 小娘 】
「我が名は幽聖岳の〈流渦深仙〉――それなる楽・シュレイの師である」
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