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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
291/421

◆◆◆◆ 8-60 献杯 ◆◆◆◆

【 ヤクモ 】

「……もう十年早ければ、私も貴公と手を携え、天下を狙っていたかもしれぬな」


【 グンム 】

「…………」


【 ヤクモ 】

「だが、私ももう歳だ。そんな大仕事に乗り出すほどの気力は、さすがにない」


【 グンム 】

「それはご謙遜でしょう。将軍は、いまだ頑健そのものでは?」


【 ヤクモ 】

「肉体の方は、頑丈な生まれつきゆえ、まだ無理もきくが……問題は、気力だ。がむしゃらさ、といってもよい」


【 ヤクモ 】

「貴公らのように、一か八かの目にかけて熱くなれるほどではない、ということだ。こたびの合戦で、最後に一花咲かせてくれようかと思っていたが……それも、かなわぬようだしな」


【 グンム 】

「…………」


【 ヤクモ 】

「――まあ、それは私自身の話にすぎん。我が軍の中で、貴公らに手を貸したいという者があれば、止めはせん」


【 グンム 】

「……とどのつまり、将軍ご自身は出馬しないが、協力はしていただける――と?」


【 ヤクモ 】

「端的に言えば、そういうことだ」


【 グンム 】

「……ありがたい次第です」


 と、グンムは手を重ねて一礼する。


【 グンム 】

「しかし、参りましたな」


【 ヤクモ 】

「と、いうと?」


【 グンム 】

「これより我々は、君側くんそくかんを除く……とかなんとか、そんなお題目を掲げて、帝都へ向かうことになるわけですが――」


【 グンム 】

「この“義軍ぎぐん”の盟主は、スイ閣下にお願いしたいと思っていましたので」

 *義軍……正義を行うと称する軍隊の意。


【 ヤクモ 】

「厄介事を年寄りに押しつけるな。せいぜい、血と汗と悪名にまみれて、励むがいい」


 にべもなく突っぱねるヤクモ。

 *にべもなく……そっけなく、取りつくしまもない、の意。


【 グンム 】

「これは手厳しい……ま、受けていただければ儲けもの、というところではありましたが」


 ずけずけと言うグンムの面の皮の厚さも、相当なものであった。


【 グンム 】

「しかし、諸軍の取りまとめには、将軍にもいささか骨折りしていただかねばならぬかと」


【 ヤクモ 】

「昔のよしみだ。その程度は、やぶさかではない」


【 グンム 】

「かたじけなく――」


【 ヤクモ 】

「さて、こんなところか。後のことは、うまくやってもらうとしよう。……一杯、もらおうか」


【 グンム 】

「は――」


 グンムが酒瓶を取り、ヤクモの盃をなみなみと満たす。


【 ヤクモ 】

「もう一人、いるようだな。一杯やらぬか」


 ヤクモの呼びかけに、暗がりから人影が歩み出る。


【 ユイ 】

「――すでに、お気づきでしたか」


 姿を見せた虎王コオウ・ユイが、深々と一礼する。


【 ヤクモ 】

「やはり、そなたか。なに、誰かいるような気がする……という程度の話だ」


【 グンム 】

「ユイ殿は私の護衛……まあ、見張りと言った方が適切ですが、護衛についてくれていました。それが、宰相にとっては不運でしたな」


【 ヤクモ 】

「……この件、ショウ家はどうするのだ?」


【 ユイ 】

「さて……しかし、我らはもともと、宰相閣下個人を支持していたわけではありません。そのはかりごとに協力しておりましたので」


【 ヤクモ 】

「なるほど、それをレイ将軍が受け継ぐなら、問題はないと?」


【 ユイ 】

「あくまで私の推測ですが……そうなるかと」


【 ヤクモ 】

「――なるほど、な。まあ、小難しい話は、もうよかろう」


 と、ユイに盃を手渡す。


【 ユイ 】

「はっ……」


 恭しく受け取るユイ。


【 ユイ 】

「されば……ラク宰相に――」


【 ヤクモ 】

「うむ」


【 グンム 】

「…………」


 三人は、故人に献杯し、盃を空にした。




 その後は、お決まりの酒宴となったが、


【 グンム 】

「――やれやれ、ユイ殿がいてくれてよかった。スイ将軍の飲み方は、尋常じゃあないからなぁ」


【 ヤクモ 】

「ふん、昔ほどではないさ」


 ……などと、言いつつ。


 その後、まっさきにユイが酔い潰れ、グンムが酔いが回って朦朧となる中、なおヤクモは平気な顔をしていたという――

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