◆◆◆◆ 3-4 岳北の小邑 ◆◆◆◆
ホノカナが、日夜宮廷で忙しく働き、かつ学んでいるころ……
【 タイシン 】
「――見えてきたな」
政商〈焦・タイシン〉の姿が、帝都の西のかた、〈岳北〉の地にあった。
その視線の先には、城壁で囲まれた小さな邑がある。
【 ユイ 】
「姐さん、本当に大丈夫なんですか?」
騎上の〈虎王・ユイ〉が問う。
【 タイシン 】
「心配性だな、侠士どのは」
【 ユイ 】
「そうもなりますよ。……なにも、みずから乗り込んでいくことはないでしょう?」
【 タイシン 】
「大魚を釣るには、それなりの苦労が必要だ。そうは思わないか?」
【 ユイ 】
「そりゃあそうでしょうが……大金を送ればすむ話じゃあないんですか?」
【 タイシン 】
「カネで片付くのなら話は早い。やっかいなのは、カネで動かぬ者だが……それだけに、いざというとき役立つというものさ」
話すうちに、二騎は邑の城門へと達した。
門のこしらえは簡素だが無駄がなく、大軍でも容易には破れそうになさそうだった。
【 タイシン 】
(さすがに、隙のないことだ)
感心しつつ、タイシンは城門へ近づいて。
【 タイシン 】
「――嶺将軍にお目にかかりたい。これなるは商人〈焦〉と、その護衛なり――」
そう声をかけると、
【 門番 】
「――しばし待たれよ!」
との、返答。
【 ユイ 】
「ちぇっ、天下の〈焦〉家を知らねぇのか? 田舎者め……」
【 タイシン 】
「なに、仕方ないさ」
息巻くユイに、タイシンは苦笑を向ける。
【 タイシン 】
「江湖に多少は知られていても、万民に名が通っているわけでもなし」
【 ユイ 】
「そりゃあ、そうかもしれませんが――」
と、ユイがいささか腐っているところへ。
【 大声 】
「――お前たち、何者だッ!」
雷鳴の如き怒声が響き渡った。
見れば、門へむかって騎馬の一団が近づいてくる。
狩りの帰りか、思い思いに獲物を引っさげていた。
【 大男 】
「何者だと聞いているッ!!」
その先頭に立つ巨漢が、ふたたび大声を張り上げた。
筋骨隆々に加えて、針のような顎ヒゲをたくわえた、見るからに獰猛そうな男である。
【 タイシン 】
「これは失礼を――私は商人の〈焦〉と申す者。嶺将軍にお目にかかるべく、お訪ねしたところです」
男の威迫にも顔色ひとつ変えず、丁寧に返答するタイシン。
【 大男 】
「兄者に用だと? 商人風情が、大将軍に面会など笑止ッ! どうせ詐欺師のたぐいであろう、早々に失せよッ!」
【 タイシン 】
「兄者? すると貴殿は――」
【 大男 】
「ええい、四の五のやかましい!」
と、背に負った巨大な得物に手をかける。
【 大男 】
「さっさと失せぬと、コイツでぶった切ってくれるぞッ! 薄汚いぺてん師めがッ!」
これを聞いて、それまでどうにか我慢していたユイの堪忍袋の緒がぷつりと切れた。
【 ユイ 】
「――黙って聞いてりゃあ好き勝手ぬかしやがって、このでくのぼうめっ!」
【 大男 】
「なんだとッ……!」
【 ユイ 】
「焦の姐さんをぺてん師呼ばわりたぁ許せねぇっ! その小生意気な口、二度と叩けねぇようにしてやるよっ!」
ずんばらりんと刀を抜いて、男に対峙するユイ。
【 大男 】
「うぬッ! この小せがれめッ!」
ただでさえ怒気をたたえていたところに、面と向かって罵られてはなんでたまろう、男は二股の大刀を軽々と手に取ると、
【 大男 】
「――ぬぅンッ!」
馬ごと真っ二つにしてくれんとばかりに、袈裟懸けの猛烈な斬撃を見舞う――
【 ユイ 】
「――――っ!」
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