表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
287/421

◆◆◆◆ 8-56 悪縁 ◆◆◆◆

【 レツドウ 】

「……どうやら、ここまでのようだな」


 すべてを諦めたように、レツドウは目を閉じた。


【 シュレイ 】

「…………」


【 レツドウ 】

後生ごしょうだ、せめて最後に、末期まつごの詩を書き残させてはもらえまいか?」


【 シュレイ 】

「ほう……さすがは宰相閣下、風流なことです。よろしいでしょう」


【 レツドウ 】

「されば――」


 と、レツドウは懐に手を伸ばすと、金の糸が織り込まれた袋を取り出した。

 そして、包みを解き――


 ――ドシュッ!


【 レツドウ 】

「ぐあっ!?」


 悲鳴とともに、レツドウは中身を取り落とした。

 その手の甲には、矢が突き立っている。


【 シュレイ 】

「やはりお持ちでしたね――おっと、拾おうなどとはなさらぬことです」


 シュレイの視線は、地に落ちたふだに向けられていた。

 そこには、見知らぬ文字が記されている。


【 シュレイ 】

「さしづめ、いずこかへ一瞬にして移動する呪符……といったところでしょうか。なるほど、実に逃げ上手の貴方らしい」


【 レツドウ 】

「ぐっ……うぬっ……ぬうぅっ……!」


 手を押さえながら、唸り声をこぼすレツドウ。


【 森羅しんらの女戦士 】

「一思いに心の臓を射抜いても、構わぬのか?」


 いつの間にか、シュレイの傍らで、全身に勇ましい刺青を刻んだ女戦士が矢を構えていた。


【 シュレイ 】

「お待ちあれ、ヴァンドーラ殿。まだ、話がありますので」


【 さときヴァンドーラ 】

「む……ならば、待とう」


 森羅の女王に仕える戦士〈聡きヴァンドーラ〉。

 かつて〈神弓姫しんきゅうき〉ことスイ・ヤクモと弓で争った使い手である。

 その彼女が、シュレイと共にいるということは、


【 レツドウ 】

「ぬっ、ううっ……! 森羅と、結託していたか……!」


【 シュレイ 】

「貴方が我がものにしようとした森羅の兵に討たれるというのも、因果なものではありますな」


【 レツドウ 】

「うっ……ぐ、ぬううっ……」


【 シュレイ 】

「――とはいえ、貴方も長年、一国の宰相を務めた御方……敬意を表して、相応しき者を招くとしましょう」


【 レツドウ 】

「…………っ?」


【 シュレイ 】

「――“リツ”!」


 シュレイは懐から呪符を取り出すと、印を結ぶ。

 すると、地に太極の図が浮かび――

 ゆらりと、人影が立ち上がった。


【 レツドウ 】

「!? お、お前は――」




【 タシギ 】

「――ははぁん……? なるほどね……そういうワケか」


 ギン・タシギは、即座に状況を把握した。

 つい先ほどのこと、かつてガク・シュレイから受け取った例の紙片に、文字が浮かび上がった。

 そこには、


 ――大事だいじの時、来たる。

 ――大功を立てる志があるならば、応じよ。


 と、あった。

 事情はよくわからないまま、


【 タシギ 】

(ふーん? まあ、付き合ってやってもいいか)


 そんな気軽な気持ちで応じたとたん、突然周りが光に包まれたかと思うと……

 気づけば、見知らぬ場所にいたのだった。

 そして、そこには――


【 レツドウ 】

「タシギ……お前かっ……!」


【 タシギ 】

「…………」


 浅からぬ縁のある宰相、ラク・レツドウと……


【 シュレイ 】

「よくぞ招きに応じてくださった、ギン司馬」


【 タシギ 】

「あのさぁ……いきなり呼び出されるなんて、聞いてなかったんだけど?」


【 シュレイ 】

「失礼した――なにぶん、急なことだったので。さて、この状況、あれこれ説明する必要はありますまい?」


【 タシギ 】

「あァ――わかるとも。アタシがなんのために呼ばれたか、ってのはね」


 その目が、レツドウに向けられる。


【 レツドウ 】

「…………っ!」


 それは、彼がよく知っている、血に飢えた残忍なまなざし。

 レツドウの背筋を、冷たいものが走った――

ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ