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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
284/421

◆◆◆◆ 8-53 逃亡者 ◆◆◆◆

【 グンム 】

「……ふぁあっ……」


 グンムがスイ軍の幕舎で目を覚ましたのは、すでに日も落ちたころだった。


【 グンム 】

「やれやれ、もう真っ暗じゃねぇか」


 ちらりと外を見て、ぼやくグンム。


【 グンム 】

「……いくらなんでも、ちと効きすぎたな、あの薬」


 グンムがヤクモの前で無防備にすやすやと眠ってみせたのは――気が緩んだのも事実ではあったにせよ――あらかじめ飲んでおいた眠り薬のおかげであった。

 胆力をヤクモに見せつけるためとはいえ、いささかやりすぎだったかもしれない。


【 グンム 】

(眠ってる間に胴と頭がおさらばして、二度と目が覚めないかとも思ったが……ま、そこは乗り切ったか)


 しかし、安堵している暇もない。

 対岸では、すでにコトが起きている頃だろう。


【 グンム 】

(さて、どうなってるやら?)


 グンムは、先日のシュレイとのやりとりを思い出す――




【 シュレイ 】

「――人間の本質は、追い詰められたときにこそ、否応なく出てくるものです」


【 シュレイ 】

「その意味でいえば、ラク宰相の本質は――“逃げ”にこそありましょう」


【 グンム 】

「ふむ……? しかし、逃げ足が速いっていうのは、悪いことじゃあるまい」


【 シュレイ 】

「ごもっともです。凡人は、土壇場どたんばに追い込まれてしまうと、そもそも決断することすら容易ではありません」


【 シュレイ 】

「ただただ、なんとかなる、なるはず……と根拠のない楽観に身を任せたあげく、結果的に破滅に陥るものです」


【 グンム 】

「だが、宰相はそうではあるまい?」


【 シュレイ 】

「はい、やはり只者ではありません。生涯で幾度か陥った窮地から、ことごとく生還しております」


【 シュレイ 】

「その本質は、後のことはあれこれ考えず、すべてを捨てて逃げ出せる思い切りの良さ――これに尽きるといえましょう」


【 グンム 】

「ま、なかなか、すべてを捨てるってのは簡単じゃないからな」


【 シュレイ 】

「ええ。たとえば〈三氏さんしの乱〉の際、あの方は敵方の奇襲を受けて、あやうく一族皆殺しに遭うところでしたが……」


【 シュレイ 】

「ためらうことなく身ひとつで脱出し、無事に生き延びることができたのです」


【 シュレイ 】

「……その際、見捨てられた妻子眷属は、ことごとく殺戮されましたが」


【 グンム 】

「…………」


【 シュレイ 】

「そのような御仁なので、窮地に陥った場合……逃げ出す公算は大といえます」


【 グンム 】

「ふむ……それで?」


【 シュレイ 】

「三十六計、逃げるにしかず――というくらいで、確かに逃亡は妙策です」


【 シュレイ 】

「……が、つねにそうとは限りません」


【 グンム 】

「……やれるか?」


【 シュレイ 】

「…………」


 ガク・シュレイは、無言で一礼した。




【 レツドウ 】

(おのれっ……こんなことならば、あやつをそばに置いておくべきであったかっ……?)


【 レツドウ 】

(いや、あやつとて、あるいはっ……)


【 馬 】

「……ヒヒィンッ……!」


【 レツドウ 】

「ぬっ……?」


 突然、レツドウを乗せた馬が足を止めた。

 その先には――


【 レツドウ 】

「…………!」


 まがまがしい妖気をまとったドス黒い影が、立ちはだかっている。

 漆黒の馬にまたがった人影が、言葉を発した。


【 黒い影 】

『――久しいな、レツドウ――』

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