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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
280/421

◆◆◆◆ 8-49 大器 ◆◆◆◆

【 ヤクモ 】

「――もしも貴公が、天下万民のためなどと、綺麗ごとを並べるようなら、信じるには値しないところであった」


【 グンム 】

「…………」


【 ヤクモ 】

「だが……貴公の本質は、昔と変わっていないようだ。良くも悪くも、な」


【 グンム 】

「お褒めにあずかり、恐縮です」


【 ヤクモ 】

「……褒めたつもりはなかったが?」


【 グンム 】

「おや、そうでしたか」


【 グンム 】

「では――賛同していただけるということですな?」


【 ヤクモ 】

「勘違いせぬことだ。今のところ、私にとってはどちらでも構わぬ。生き残るのが貴公であれ、宰相であれ、な」


【 ヤクモ 】

「せいぜい、お手並みを拝見するとしよう。その先の話は、それからだ」


【 グンム 】

「ごもっともです。……あぁ、柄にもなく肩ひじ張った話をしたおかげで、くたびれましたよ」


 と、大きく伸びをするグンム。


【 ヤクモ 】

「ずいぶん余裕のようだが、これからどうする?」


【 グンム 】

「まあ、私のほうは、しばしこちらで厄介になるくらいですな。向こうで片がつくまで」


【 ヤクモ 】

「……ことが成らずば、どうする?」


【 グンム 】

「それは、その時に考えるとしましょう。ふぁあぁ……朝が早かったせいで、眠くなってきました。寝台をお借りしても?」


【 ヤクモ 】

「どうあっても、しばらくは居座るつもりらしいな」


【 グンム 】

「果報は寝て待て――というわけです。では、失礼……」


 そう言ってグンムは寝台に寝そべると、たちまち寝息を立てはじめた……




【 ヤクモ 】

「……呆れた男だ」


 寝台に寝転がるグンムを見て、ヤクモは呟く。


【 ヤクモ 】

(豪胆さを見せるための、ハッタリかと思ったが……)


 どうやら、本当に寝ているようだ。


【 ヤクモ 】

(……これは、一本取られたか)


 無防備な姿をさらすことで、己の赤心まごころを示す――

 口で言うのはたやすいが、実践するのは決して容易なことではない。


【 ヤクモ 】

(まあ、いささか芝居がかってはいるがな)


 すべてがグンムの意ではあるまい、とヤクモは見た。

 おそらく、裏に絵図を描いた者がいるのだろう。


【 ヤクモ 】

(とはいえ、演じ切れるなら、大したものではある)


 この男が、果たしてどこまでやれるのか?


【 ヤクモ 】

(……定めねば、なるまいな)




 その頃、ヤクモの幕舎の外では……


【 ミナモ 】

「うぅ……父上とレイ将軍……いったい、どんな話をされているんですのっ……?」


 ミナモが、落ち着かなさそうにうろついていた。


【 タシギ 】

「ちっ、うっとうしいっ……静かにできねェのか、お嬢さまはっ?」


【 ミナモ 】

「はぁあっ? 貴方ごときに四の五の言われる筋合いはございませんわっ! 宿舎で待っていればよろしいでしょうっ!」


【 タシギ 】

「フン、そうしたいのはやまやまだけど、一応は護衛なんでね。……血の気の多いヤツが、乗り込んでこねェとも限らないだろうが」


【 ミナモ 】

「無礼なっ……! そんな礼儀知らずで物騒な輩、我が軍にいるはずもありませんわっ!」


【 タシギ 】

「はぁ~っ? ついさっき、いきなり矢を射かけてきたヤツが言うセリフかよっ!」


 などと、女ふたりが言い争っている脇で……


【 ドリュウ 】

「ぬう……実際、実際のところ、あの男は、なんのために来たのだ?」


【 タイザン 】

「さぁ……わかりかねます」


 スイ・ドリュウの疑問に、三ツ羽のタイザンが首を振っていた。


【 ドリュウ 】

「お前は、どうして、どうしてそんなに落ち着いていられるっ?」


【 タイザン 】

「なにがあろうと、我らは大王とともに戦うのみ……それさえ間違わなければ、迷うことはありますまい」


【 ドリュウ 】

「む、むむ……それは……それはそうだっ! 我らはつねに、スイ大王とともに……!」


【 タイザン 】

「ええ、大王とともに――」


【 タイザン 】

(そう、なにがあろうと……)


【 タイザン 】

(……ただし、我らが一族のためになる限り、ではあるが)


 それはひとりタイザンのみでなく、ほとんどの飛鷹ひようの民が抱く本音ではあるのだった。

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