◆◆◆◆ 3-3 乱世の胎動 ◆◆◆◆
【 ミズキ 】
「その意気は結構。しかし、さすがにあるていどの基礎は学んでもらわなくては、お話になりません」
と、ミズキが話を戻す。
【 ミズキ 】
「ホノカナ。“私たち”の敵とは、誰のことですか?」
【 ホノカナ 】
「て、敵ですか? それはもちろん――」
まっさきに思い浮かぶのは、あの忌々しい方士の一団。
【 ホノカナ 】
「〈十二佳仙〉、ですよねっ?」
【 ヨスガ 】
「まぁ、さしあたっての脅威ではあるな」
ホノカナの答えに、ヨスガがうなずいてみせる。
【 ミズキ 】
「……確かに、彼らの存在は厄介です」
つとめて冷静さを保つようにして、ミズキが続ける。
彼女もホノカナ同様、十二佳仙にはなにかしら含むところがあるのかもしれなかった。
【 ミズキ 】
「陛下が成人なさったとしても、あの者たちがのさばっている限りは、実権を握ることは困難でしょう。では、他には?」
【 ホノカナ 】
「それから、ええと――」
思いついたものの、ホノカナはさすがに口に出すのをためらう。
【 ヨスガ 】
「遠慮することはない。我が母上さまであろう?」
【 ホノカナ 】
「――――っ」
図星を突かれ、絶句するホノカナ。
【 ヨスガ 】
「そう、あの御方もまた……手強い存在です」
皇太后ランハの実力は、侮りがたいものがある――それは、ことさら確かめるほどのことでもない。
【 ヨスガ 】
「なにせ、あの御人がその気になれば、我を玉座から引きずり下ろすくらいのことは容易なのだからな」
【 ホノカナ 】
「ええっ? で、でも……皇帝陛下が、この国で一番偉いんですよね……?」
【 ヨスガ 】
「確かに原理としてはそうだ。だが、先帝の皇后であった皇太后には、皇帝の座をすげ替えるくらいの力はある。……それもこれも、あの御仁ならではの話だがな」
【 セイレン 】
「ううむ、権力というものの魔性、そして妙味! じつに奇怪なものですねぇ――」
【 ミズキ 】
「それから……烙宰相閣下ですか。最近は、めったに宮廷に出仕しておりませんが」
【 セイレン 】
「さてさて、宙の古狐と呼ばれし御方も、そろそろ引退間近、といったところでありましょうか!」
【 ヨスガ 】
「ふん、隠れて牙や爪を研いでいるのであろうよ。あれは、おとなしく引っ込んでいるようなタマではない」
【 ミズキ 】
「――と、宮廷の中にあっても、これだけ難敵がそろっているわけですが……」
ミズキが、手にした棒で卓の上の地図を指す。
【 ミズキ 】
「しょせんは、小さな池の中で争っているようなもの。みやこの外には、もっと強大な敵がはびこっています」
【 ホノカナ 】
「えっと……〈四寇王〉……でしたっけ?」
それくらいは、ホノカナも耳にしたことがある。
【 ヨスガ 】
「さよう。〈北寇〉烈、〈東寇〉雷、〈西寇〉進、そして――」
【 ミズキ 】
「もっとも帝都近くに勢力をもつ、〈南寇〉、すなわち〈翠・ヤクモ〉――」
「……この四賊が、宙の版図の半分以上を我が物顔で占拠しているのです」
と、ミズキが地図の上に石を置き、塗りつぶしていく。
【 ホノカナ 】
「そ、そんなに……!?」
【 ホノカナ 】
(たいそうな勢力だとは聞いてたけど、これほどだなんて……)
【 セイレン 】
「さらにいえば、その他の土地ももはや帝国のものにはあらず!」
セイレンも石を手に取り、次々と地図を埋めていく。
【 セイレン 】
「地方長官たる〈巡察使〉たちがなかば独立し、己の保身と富国強兵にはげんでおります。これはもう、群雄割拠の大乱世といっていいのでは?」
【 ミズキ 】
「……完全に自立しているわけではないにせよ、彼等は帝国の指図に容易には従わないでしょう」
【 ヨスガ 】
「そう考えれば、今や帝国の領土といえるのは……せいぜいこれっぽっちというわけだ」
【 ホノカナ 】
「――――っ」
すっかり真っ黒の石で塗りつぶされた地図を見て、息を呑むホノカナ。
空白が残っている地域は、帝都周辺以外はごくわずかであり、いたって心もとない。
【 ヨスガ 】
「おまけに、異国の者どもの動きも活発になっているとか……まったく、前途多難としか言いようがないな」
【 ホノカナ 】
「そ、そんな、ひとごとみたいに……」
【 ヨスガ 】
「不利な状況を嘆いたところで仕方あるまい。ならば、この盤面をいかにひっくり返すかを考えたほうが面白いであろう?」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
不敵に微笑むヨスガは、どこか楽しげですらあった。
まったくもって、夢物語のようではあるけれど……
(でも、このひとならば、本当に――)
やってのけるのかもしれない、とホノカナは思った。
【 セイレン 】
「わはは! お任せください、この仙術師にして大軍師たるセイレンがここにあるからには! 必ずや、陛下をまことの天下のあるじへと導いてごらんにいれますとも!」
【 ミズキ 】
「その前に、藍老師はまずはもっと勉強をなさってください」
【 セイレン 】
「あっ、はい……」
【 ホノカナ 】
(弱っ……)
ミズキの指摘に、しずしずと腰を下ろすセイレンだった。
【 ミズキ 】
「では――講義を、続けるとしましょう」
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