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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
28/421

◆◆◆◆ 3-3 乱世の胎動 ◆◆◆◆

【 ミズキ 】

「その意気は結構。しかし、さすがにあるていどの基礎は学んでもらわなくては、お話になりません」


 と、ミズキが話を戻す。


【 ミズキ 】

「ホノカナ。“私たち”の敵とは、誰のことですか?」


【 ホノカナ 】

「て、敵ですか? それはもちろん――」


 まっさきに思い浮かぶのは、あの忌々しい方士の一団。


【 ホノカナ 】

「〈十二佳仙じゅうにかせん〉、ですよねっ?」


【 ヨスガ 】

「まぁ、さしあたっての脅威ではあるな」


 ホノカナの答えに、ヨスガがうなずいてみせる。


【 ミズキ 】

「……確かに、彼らの存在は厄介です」


 つとめて冷静さを保つようにして、ミズキが続ける。

 彼女もホノカナ同様、十二佳仙にはなにかしら含むところがあるのかもしれなかった。


【 ミズキ 】

「陛下が成人なさったとしても、あの者たちがのさばっている限りは、実権を握ることは困難でしょう。では、他には?」


【 ホノカナ 】

「それから、ええと――」


 思いついたものの、ホノカナはさすがに口に出すのをためらう。


【 ヨスガ 】

「遠慮することはない。我が母上さまであろう?」


【 ホノカナ 】

「――――っ」


 図星を突かれ、絶句するホノカナ。


【 ヨスガ 】

「そう、あの御方もまた……手強い存在です」


 皇太后ランハの実力は、侮りがたいものがある――それは、ことさら確かめるほどのことでもない。


【 ヨスガ 】

「なにせ、あの御人がその気になれば、我を玉座から引きずり下ろすくらいのことは容易なのだからな」


【 ホノカナ 】

「ええっ? で、でも……皇帝陛下が、この国で一番偉いんですよね……?」


【 ヨスガ 】

「確かに原理としてはそうだ。だが、先帝の皇后であった皇太后には、皇帝の座をすげ替えるくらいの力はある。……それもこれも、あの御仁ならではの話だがな」


【 セイレン 】

「ううむ、権力というものの魔性、そして妙味! じつに奇怪なものですねぇ――」


【 ミズキ 】

「それから……ラク宰相閣下ですか。最近は、めったに宮廷に出仕しゅっししておりませんが」


【 セイレン 】

「さてさて、宙の古狐ふるぎつねと呼ばれし御方も、そろそろ引退間近、といったところでありましょうか!」


【 ヨスガ 】

「ふん、隠れて牙や爪を研いでいるのであろうよ。あれは、おとなしく引っ込んでいるようなタマではない」


【 ミズキ 】

「――と、宮廷の中にあっても、これだけ難敵がそろっているわけですが……」


 ミズキが、手にした棒で卓の上の地図を指す。


【 ミズキ 】

「しょせんは、小さな池の中で争っているようなもの。みやこの外には、もっと強大な敵がはびこっています」


【 ホノカナ 】

「えっと……〈四寇王しこうおう〉……でしたっけ?」


 それくらいは、ホノカナも耳にしたことがある。


【 ヨスガ 】

「さよう。〈北寇〉レツ、〈東寇〉ライ、〈西寇〉シン、そして――」


【 ミズキ 】

「もっとも帝都近くに勢力をもつ、〈南寇〉、すなわち〈スイ・ヤクモ〉――」

「……この四賊が、宙の版図の半分以上を我が物顔で占拠しているのです」


 と、ミズキが地図の上に石を置き、塗りつぶしていく。


【 ホノカナ 】

「そ、そんなに……!?」


【 ホノカナ 】

(たいそうな勢力だとは聞いてたけど、これほどだなんて……)


【 セイレン 】

「さらにいえば、その他の土地ももはや帝国のものにはあらず!」


 セイレンも石を手に取り、次々と地図を埋めていく。


【 セイレン 】

「地方長官たる〈巡察使じゅんさつし〉たちがなかば独立し、己の保身と富国強兵にはげんでおります。これはもう、群雄割拠の大乱世といっていいのでは?」


【 ミズキ 】

「……完全に自立しているわけではないにせよ、彼等は帝国の指図に容易には従わないでしょう」


【 ヨスガ 】

「そう考えれば、今や帝国の領土といえるのは……せいぜいこれっぽっちというわけだ」


【 ホノカナ 】

「――――っ」


 すっかり真っ黒の石で塗りつぶされた地図を見て、息を呑むホノカナ。

 空白が残っている地域は、帝都周辺以外はごくわずかであり、いたって心もとない。


【 ヨスガ 】

「おまけに、異国の者どもの動きも活発になっているとか……まったく、前途多難としか言いようがないな」


【 ホノカナ 】

「そ、そんな、ひとごとみたいに……」


【 ヨスガ 】

「不利な状況を嘆いたところで仕方あるまい。ならば、この盤面をいかにひっくり返すかを考えたほうが面白いであろう?」


【 ホノカナ 】

「…………っ」


 不敵に微笑むヨスガは、どこか楽しげですらあった。

 まったくもって、夢物語のようではあるけれど……


(でも、このひとならば、本当に――)


 やってのけるのかもしれない、とホノカナは思った。


【 セイレン 】

「わはは! お任せください、この仙術師にして大軍師たるセイレンがここにあるからには! 必ずや、陛下をまことの天下のあるじへと導いてごらんにいれますとも!」


【 ミズキ 】

「その前に、アイ老師はまずはもっと勉強をなさってください」


【 セイレン 】

「あっ、はい……」


【 ホノカナ 】

(弱っ……)


 ミズキの指摘に、しずしずと腰を下ろすセイレンだった。


【 ミズキ 】

「では――講義を、続けるとしましょう」

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