◆◆◆◆ 8-48 決断 ◆◆◆◆
【 ヤクモ 】
「――――っ」
翠・ヤクモは百戦錬磨の将であり、人一倍、豪胆な男である。
それでも、グンムの言葉には、一驚を喫した。
*一驚を喫する……驚くの意。
【 ヤクモ 】
「グンム、そなた……自分がなにを言っているのか、わかっているのか?」
つい、昔の呼び方に戻ってしまったのも、無理はない。
【 グンム 】
「もちろんですとも、翠将軍」
【 ヤクモ 】
「……謀叛を起こす、と聞こえたが?」
【 グンム 】
「まあ、言い方はいろいろあるでしょうが……客観的には、そうなりましょうな」
【 ヤクモ 】
「…………」
【 グンム 】
「信じられませんか?」
ヤクモは、グンムの双眸をじっと見つめた。
そこには、戯れの色はかけらもない。
【 ヤクモ 】
「……いや。戯れ言ではないようだ。しかし、合点はいかぬな」
【 ヤクモ 】
「貴公は、田舎で穏やかに過ごすのが、目的ではなかったか? 天下取りなどは、それとはまるで逆の事業であろう」
【 グンム 】
「おっしゃる通りです。私とて、誰も邪魔をする者がいないなら、故郷で静かに暮らしていたい」
【 グンム 】
「ですが、それが許されないのが、この時代です。……で、あれば」
【 グンム 】
「みずから、誰にも邪魔されぬ立場を掴むしかありますまい」
【 ヤクモ 】
「そのために、上に立つ者を排除する、と?」
【 グンム 】
「手っ取り早く言えば、そういうことです」
【 ヤクモ 】
「…………」
【 グンム 】
「とはいえ、今の私は一介の将にすぎません。そこで……」
【 ヤクモ 】
「私に手を貸せ、というのか」
【 グンム 】
「はい」
【 ヤクモ 】
「……気軽に言ってくれるものだな」
【 グンム 】
「かしこまったところで、意味はありませんので」
【 ヤクモ 】
「……こうして私と会っている以上、すでに、仕込みは済ませているのだろうな?」
【 グンム 】
「もちろんです。ま、どんな目が出るかは、骰を振ってみるまではわかりませんが」
【 ヤクモ 】
「貴公をこうして迎え入れた時点で、私も共犯者……というわけだな」
【 グンム 】
「悪く言う者もいるでしょうな。しかし、まだ手遅れではありませんよ」
【 グンム 】
「今、私を斬ってしまえば、将軍の潔白は示せましょう」
【 ヤクモ 】
「…………」
ヤクモの眼光が、グンムを刺す。
お互い、携えているのは一振りの剣のみ。
【 ヤクモ 】
(この間合いならば……)
ただの一太刀で、仕留められるであろう。
しかし……
【 ヤクモ 】
「――やれやれ」
老ヤクモは首を振り、嘆息した。
【 ヤクモ 】
「つくづく向こう見ずなものだな、若さというのは」
【 グンム 】
「……さて、将軍、返答はいかに?」
【 ヤクモ 】
「…………」
グンムを見つめ、ヤクモは口を開いた――
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