◆◆◆◆ 8-42 謀と謀 ◆◆◆◆
【 レツドウ 】
「――――っ」
さしものレツドウも、一瞬、虚を突かれたが、
【 レツドウ 】
「……なるほどな。確かに貴公なら申し分ない。総大将がみずから降伏をうながしに来たとあれば、ヤクモの面子も立つというものであろう」
【 レツドウ 】
「――しかし、そうはいっても、いささか無謀ではないか?」
【 グンム 】
「もとより承知しております。されど、これも国家のためなれば……」
【 レツドウ 】
「……そうか。そこまで言うなら止めはせん。船で獅水を渡る気か?」
【 グンム 】
「は、だいぶ水も引いておりますし。わずかな供を連れて渡河するくらいは難しくはないかと」
【 レツドウ 】
「――わかった。では、降伏の条件を詰めるとしよう」
【 グンム 】
「はっ……」
【 レツドウ 】
(あやつ……どういうつもりだ?)
グンムが去った後、レツドウは思案する。
【 レツドウ 】
(和平については、嗅ぎつけているかと思ったが……)
そうであるようなそうでないような、曖昧な態度だった。
そのくせ、単身、敵陣に赴くなどと、命知らずなことを言い出す……
【 レツドウ 】
(……読めぬ男だ)
有能ではあるのだろうが、下に置くには、物騒すぎる。
【 レツドウ 】
(やはり、排除するしかないか)
使えるものなら使いたいところだが、それがならぬなら、盤面から始末するしかない。
では、いかにして処分するか?
【 レツドウ 】
(わざわざ、虎口に入るというなら……)
虎に食わせる、というのも一つの手だ。
【 レツドウ 】
(しかし、それは良しとすまい)
ヤクモにグンム抹殺を命じても、応じるとは考えづらい。
で、あれば、
【 レツドウ 】
(不慮の事故にて――と、いうこともあるか)
などと思考を巡らせていた。
【 グンム 】
(……やはり、食えない御仁だ)
己の幕舎に戻ったグンムは、レツドウとの会話を思い出していた。
【 グンム 】
(結局、密旨の話は出なかったな)
どうせ偽物であるから、わざわざ披露するまでもない、というところか。
【 グンム 】
(翠将軍にも口止めはしてあるだろうしな……)
ともあれ、事態は動いた。
ことの次第を記した手紙を急使に持たせて、岳東に戻ったシュレイへと送る。
【 グンム 】
(さて、鬼が出るか蛇が出るか――だ)
と、腹をくくるグンムなのだった。
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