◆◆◆◆ 3-2 凡人 ◆◆◆◆
【 ミズキ 】
「そもそも、これはホノカナと藍老師のための講義です。陛下が同席される必要はございませんが?」
【 ヨスガ 】
「なに、日々学ぶことは大事であろう? 知ってはおっても、あらためて学び直すことも必要ゆえな」
【 ミズキ 】
「……そういうことにしておきましょう。では、今宵の講義ですが……」
と、ミズキが書物を開く。
【 ミズキ 】
「ホノカナ。先日の講義の内容は覚えているでしょうね?」
【 ホノカナ 】
「はっ、はいっ! 宙王朝のなりたちについて……」
【 ミズキ 】
「そうです。神祖による建国以来三千年あまり、帝国は幾度となく崩壊の危機に陥りつつも、奇跡的に滅亡をまぬがれ、再興されて、現代まで続いてきました」
【 セイレン 】
「ああ、しかし、今やそれも風前の灯! 今度こそ危急存亡の秋――というわけですなぁ」
【 ホノカナ 】
「せ、セイレンさま……!?」
あまりにあけすけな方士の言に、さすがに戸惑うホノカナ。
【 ヨスガ 】
「……気にすることはない。まったくの事実ゆえな」
ヨスガ、不機嫌そうに腕組みをしつつ。
【 ヨスガ 】
「また今度も奇跡が起きて、国が蘇る――などという保証はどこにもない」
「ゆえに、我らがなんとかせねばならぬのだ」
【 ホノカナ 】
「きっとできます! 陛下――じゃない、ヨスガ姉さまなら!」
【 ヨスガ 】
「――はぁ? なにをひとごとのように言っておる」
【 ホノカナ 】
「えっ?」
ヨスガに睨まれ、目をぱちくりとさせるホノカナ。
【 ヨスガ 】
「我だけではない。そなたも力を尽くすのだ!」
【 ホノカナ 】
「え、ええっ? で、でも、わたし、ただの女官ですし、なんのとりえもないですし……」
【 ヨスガ 】
「ふむ、そうだな、さほど体力があるわけでなし、武芸もさっぱり、知恵があるわけでもなし、群を抜いた美貌があるわけでもなし……まあ、凡人ではあるな」
【 ホノカナ 】
「そこまで言われるとさすがに凹みますけれど……!」
【 ヨスガ 】
「だが、それでよい――否、それがよいのだ」
【 ホノカナ 】
「…………?」
ニヤリと笑うヨスガに、ホノカナは首をかしげるばかり。
【 ヨスガ 】
「我のように生まれつき華のある者にはできぬことも、そなたにはできる。大きな魚は網から逃れられぬが、小魚なら逃げられる……そういったようなことだ」
【 ホノカナ 】
「は、ははぁ……」
なんとなく、わかるような、わからないような。
【 セイレン 】
「つまるところ、ホノカナ殿の武器はその地味さ、平凡さ! まさにそれこそが、あなたの比類なきとりえと言えましょう! 我らのような光輝く存在は、いかんせん目立ちすぎますからなぁ!」
【 ホノカナ 】
「ぜんぜん褒められている気がしません……!」
でも――自分にも、なにかできることがあるのならば。
【 ホノカナ 】
「わ、わたし、がんばりますっ!」
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