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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
268/421

◆◆◆◆ 8-37 天書 ◆◆◆◆

 ……岳東がくとうに滞陣中の森羅しんら軍は、窮地にあった。


 水が合わないせいか、病を発する将兵が続出していたのだ。


 女王が祈祷で癒そうとするも、森羅の地から遠く離れたことで加護が薄れたのか、思うようにいかず、困り果てていた。


 このままでは、撤退もやむなしか……と、思われたとき。


 ふいに、通りすがりの方士がやってきて、癒しの水を分け与え、森羅の将兵の病を癒してくれたのである。


 感謝する女王らと、方士は少しばかり語らった末、名も告げずに立ち去ったのだった。


 のちに広まった、噂によれば。


 ――かの方士は、敵陣の官軍の将の弟弟子おとうとでしにあたる。


 ――その将が、森羅の軍が病に苦しんでいると聞いて同情し、彼を派遣したのだ、と。


 それを聞いた森羅の女王は、宙軍にも心ある者がいると知って、大いに感銘を受けたのだった……




【 グンム 】

「――ほう、弟弟子どのを動かしたのか?」


【 シュレイ 】

「その通りです……と、言いたいところですが」


 シュレイは苦笑する。


【 シュレイ 】

ヘキ師弟していは、他人に命令されて動くような者ではありませんので」


 森羅の陣に赴いた方士とは、シュレイの弟弟子である〈雲竜飛聖うんりゅうひせい〉ことヘキ・サノウ、その人。

 そもそも、シュレイの陣にやってきたのも、兄弟子の助太刀に駆けつけた……というわけではさらさらなく、いわば興味本位で現れただけにすぎない。

 そしてある日、ふと姿が見えなくなった。

 またどこかへ、薬草採りにでも行っていたのかと思いきや……。


【 グンム 】

「つまりアレか? 勝手に敵陣に赴いて、勝手に敵兵を癒しちまった、ってことか?」


【 シュレイ 】

「…………」


 シュレイは無言で頷いた。


【 グンム 】

「いやはや、つくづく方士ってのは度し難いな。……それで?」


【 シュレイ 】

「彼から話を聞いた時は、さすがに、いささか頭に血が昇りましたが……」


【 シュレイ 】

「……ふと思い直したのです、これは利用できそうだ、と。そこで、私の差し金だった――という噂を流したというわけです」


【 グンム 】

「ほう……なるほどな。それで、森羅軍と渡りをつけたと?」


【 シュレイ 】

「そこまでのことではありませんが……話次第では、交渉の席にはついてもらえる余地はあるかと」


【 グンム 】

「ふむ……そこまで手を打ってるなら、策も立ててるんだろうな?」


【 シュレイ 】

「は、ここに一計があります。――ただし、賭けにはなりますが」


【 グンム 】

「ま、仕方ないさ。絶対に安全な道なんてものはありゃしねえ。聞かせてもらおうじゃないか」


【 シュレイ 】

「それでは――」


…………

……………………

………………………………


【 グンム 】

「……ふうむ。確かに、そいつはなかなかの賭けだな」


 シュレイから策を聞かされたグンムは、さすがに即断しかねた。


【 シュレイ 】

「ですが、これくらい思い切った手を打たねば……」


【 グンム 】

「そうだな。勝算は見込めぬ、か」


【 グンム 】

「――よし、わかった。やろう!」


 グンムは立ち上がった。

 慎重ではあるが、臆病ではない男である。

 ひとたび腹をくくれば、大胆なことも辞さない。


【 シュレイ 】

「さすがの即決ぶり……ではさっそく、段取りをつけるとしましょう」


 と、シュレイは懐から一冊の書物を取り出した。


【 グンム 】

「お……もしや、それが話に聞く〈天書てんしょ〉ってやつか?」


【 シュレイ 】

「はい。師父しふより授かりし品です。……ご覧になりますか」


【 グンム 】

「いや、やめておこう。仙才がない凡夫が触っても、毒にしかなるまい?」


【 シュレイ 】

「これは写しですので、そこまでのことはございませんが……」


 シュレイの持つ天書、とはいったい何であるのか?

 そのいわれは、さかのぼること、幾星霜――

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