◆◆◆◆ 8-32 別離 ◆◆◆◆
【 ユイ 】
「――なにを見ている?」
【 カイリン 】
「……己の、姿ダ」
魅入られたように、カイリンは水面を見つめている。
【 ユイ 】
「なにが、見えるんだ?」
【 カイリン 】
「……愚かな小娘ダ。アタシは、あの尼を相手に、一言も言い返せなかッタ……!」
【 ユイ 】
「…………」
【 カイリン 】
「……わかっていタ。アタシの仇討ちは……ただの、意地に過ぎナイと……!」
【 ユイ 】
「だが、それも……大事なものではないのか?」
【 カイリン 】
「違ウ、そうでは――そうではナイのダ……!」
【 ユイ 】
「…………」
【 カイリン 】
「あのとき……父が、あの男に、討たれたときッ……」
数年前。
飛鷹の有力部族のひとつ、〈三ツ羽〉の族長であるカイザンは、ヤクモとの一騎討ちに敗れ、落命した。
【 カイリン 】
「アタシは……父が討たれた時、悲しかッタ……だが、それ以上にっ……」
【 カイリン 】
「魅せられて、いタ……あの男の、強さにッ……!」
【 ユイ 】
「…………」
【 カイリン 】
「……アタシは、そんな自分を許せなかっタッ……だからアタシは、それをごまかすように、仇討ちにこだわっテッ……」
【 カイリン 】
「アタシは……ただ、甘えていタだけダ……だからこそ、あの男は、アタシを殺さなかっタのだロウ……殺すまでもナイ、と思っていタに違いナイ……!」
【 ユイ 】
「……かもしれん」
【 カイリン 】
「……あげくに、あの尼の気合に、アタシは叶わなかっタ。ただのハッタリではナイ、あの、命懸けの気合にッ……」
【 カイリン 】
「そうダ……アタシはッ……命を懸けていなかッタ……そんなコトに、ソナタも、巻き込んでしまッタ……!」
【 ユイ 】
「それは、別にいいさ。俺が勝手に付き合っただけのことだからな。だが……」
【 ユイ 】
「問題は、この先だ。これから、どうする?」
【 カイリン 】
「…………ッ」
カイリンは拳を握り締める。
【 カイリン 】
「このまま、おめおめと一族のもとには戻れヌ……せめて、あの男に、肩を並べるまでハッ……!」
【 ユイ 】
「岳南を離れるのか?」
【 カイリン 】
「うム……あの男に挑むにハ、もっと天地を知らねばならヌ……!」
【 ユイ 】
「そうか。それもいいだろうさ」
【 ユイ 】
「――じゃあ、ここで解散だな」
【 カイリン 】
「ム……そうなるナ。大層、世話になッタ……!」
【 ユイ 】
「世話ついでだ、こいつを持っていくといい」
【 カイリン 】
「……っ? これハ……」
ユイが差し出したのは、彼の署名が入った書状であった。
【 ユイ 】
「俺からの紹介状だ。道中、困ったときは焦家に頼ればいい。あちこちで商売をやってるから、探せばすぐに見つかると思うぜ」
【 カイリン 】
「……っ、そうカ、ソナタは……朽縄ドノ、ではなかったナ?」
【 ユイ 】
「それも昔の名ではあるがな……今は、虎王・ユイと名乗ってる」
【 カイリン 】
「ム……そうカ……虎王……」
ふと思いついたように、
【 カイリン 】
「ならバ、ひとつ、頼みがあるのだガ……」
【 ユイ 】
「乗りかかった船だ。なんでも聞くだけは聞こうじゃないか」
ユイにうながされ、カイリンが頼みごとを口にしたことから、英雄は千禍の内に一福を拾い、剣侠は万死の中に一生を得る――という次第となるのである。
果たしてカイリンの頼みごととは、いったいどんなものであったか、それは次回で。
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