◆◆◆◆ 8-30 仇討ち始末 ◆◆◆◆
三貴教の尼僧ゾダイの身を賭しての訴えを受けて、カイリンが選んだのは――
【 カイリン 】
「…………ッ」
刀を、鞘に収めることだった。
【 カイリン 】
「……無関係の者の首を斬るなど、意味がナイッ……」
【 ゾダイ 】
「では……?」
【 カイリン 】
「……ッ、老いぼれッ! 勝負は……預けタッ!」
そのままカイリンは背を向け、ひとり、駆け出した。
いや、その様子はむしろ、逃げ出した――と言った方が正しい表現だったかもしれない。
【 ヤクモ 】
「…………」
カイリンの背を見送りつつ、ヤクモもまた刃を収める。
【 ゾダイ 】
「……はぁっ……ふぅうっ……」
大きく息をつくゾダイ。
【 ヤクモ 】
「御坊の捨身に、救われたな」
【 ゾダイ 】
「い、いえ――出過ぎた真似をいたしました。お赦しを……」
【 ヤクモ 】
「なんの、これも御坊の徳のなせるわざであろう」
【 ゾダイ 】
「それより、お怪我はっ……?」
【 ヤクモ 】
「なに、大したことはない。……さて」
と、ヤクモがユイに向き直る。
【 ユイ 】
「…………」
ユイもまた、すでに刀を収めていた。
【 ヤクモ 】
「――こうなることを、はじめから見越していたのか? 侠客よ」
【 ユイ 】
「……いえ。あいにく、そんな計算ができるほどには、利口ではありませんので」
【 ユイ 】
「ことが成らねば、ただただ、かの娘と枕を並べて斬られていただけのことでしょう」
【 ヤクモ 】
「どうかな。相討ちには持ち込めたかもしれぬぞ」
【 ユイ 】
「是が非でもとなれば、それもやむなしではありますが……」
走り去るカイリンの背を見ながら。
【 ユイ 】
「――カイリン殿からは、将軍に対する恨みや憎しみは感じられませんでした。むしろ、話を聞けば聞くほど、敬意すら覚えているかのようで……」
【 ヤクモ 】
「…………」
【 ユイ 】
「……それでもなお、仇討ちに固執するのは、一族の誇りとか、そういったもののためかと思いましたが……どうも、そうでもない様子」
【 ユイ 】
「ならば、己の仇討ちの意味、重みを計る機会があれば、あるいは考えも変わるか、と思った次第――」
【 ヤクモ 】
「ふむ……ゾダイ殿が説伏してくれるであろう、と?」
*説伏……説き伏せるの意。説得。
【 ユイ 】
「そこは、半々です。……うまくいけば御の字、成らねば死に花を咲かせるのみ、というつもりで」
【 ヤクモ 】
「やれやれ。いささか己の命を安く見積もりすぎるようだな、侠客というものは」
【 ユイ 】
「まったく――」
ユイは、苦笑しながら首を振った。
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