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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
260/421

◆◆◆◆ 8-29 捨身 ◆◆◆◆

【 ヤクモ 】

「ふむ……」


 一気に約五十人にまで増えたユイの影に包囲され、ヤクモは髭を撫でた。


【 ヤクモ 】

「なかなかの芸よな。旅芸人としてもやっていけるのではないか?」


【 ユイたち 】

『お褒めにあずかり、恐悦至極きょうえつしごく――』


【 ユイたち 】

『――さて、カイリン殿。今度は見てるだけはなしだ。俺が隙を作るから、あんたは全力で、ぶつかってみろ』


【 カイリン 】

「……っ、わかっていル……!」


 手にした剣を構え直すカイリン。


【 ヤクモ 】

「…………」


【 ユイたち 】

『――参る』


【 カイリン 】

「…………ッ」


 今度こそ決着がつくかと、思われたとき……


【 ゾダイ 】

「――っ、お待ちくだサイッ!」


 ヤクモをかばうようにして、大萬天ダイマンテン・ゾダイが割って入った。


【 ヤクモ 】

「御坊――」


【 ゾダイ 】

「カイリン殿! あなたのことは、飛鷹ひようの民の間でも、評判になっておりマス……!」


【 カイリン 】

「ムム……なんだ、オマエはっ?」


【 ゾダイ 】

「申し遅れました、拙僧は大萬天ダイマンテン・ゾダイと申す者、三貴教の尼僧にて!」


【 カイリン 】

「ム……最近、民の中にも信者が増えていると聞ク……その尼が、どうシタッ?」


【 ゾダイ 】

「あなたのご尊父、カイザン殿は、スイ将軍との一騎討ちにて、命を落とされたとか……その仇を討たんとしているのでショウ?」


【 カイリン 】

「知れたコト! まさか、仇討ちなどやめよ――などと、たわけたことを説くのではあるまいナ……!」


【 ゾダイ 】

「いえ――先日、それなる侠士殿にも説きましたが……


【 ゾダイ 】

「我らの教えは、赦すコト……されど、赦せないコトがあるのも、また人の世というものデス」


【 カイリン 】

「…………」


【 ゾダイ 】

「――デスが今、スイ将軍は岳南・岳東に暮らす数多の衆生を守る大役をみずから負っておられマス」


【 ゾダイ 】

「カイリン殿も、無辜むこの民が苦しむコトを望んではおられマスまい?」

 *無辜……罪がないの意。


【 カイリン 】

「そ、それは――」


【 ゾダイ 】

「で、あれば……恨みを捨て、仇討ちを諦めよ――などとは申しマセン。それは、聖人でなければ難しいコトなれば……」


【 ゾダイ 】

「ゆえに、しばしの間、その仇討ち、待ってはもらえマセンか? ……そう、せめて、南方の地に平穏が訪れるまでは」


【 カイリン 】

「――――ッ」


【 ゾダイ 】

「……もとより、ただで、とは申しマセン」


【 ゾダイ 】

「代価として、この首、あなたに差し上げマショウ――」


【 カイリン 】

「……はアッ? ナニを言っていル……!? オマエは関係あるマイ!」


【 ゾダイ 】

「いかにも……その無関係な拙僧が、願いを聞いてもらおうと言うのデスから、それくらいの代償は払わなければなりマスまい!」


【 ヤクモ 】

「御坊――」


【 ゾダイ 】

「……勝手な物言いをお許しください、将軍」


【 ゾダイ 】

「されど、拙僧はすでに教えに身を捧げし者……今、天下万民のために捨身シャシンすることに、ためらいなどございません――」


【 ヤクモ 】

「…………っ」


【 ゾダイ 】

「さあ、どうかこの首、ねてくださいマセ――」


【 カイリン 】

「ぬ、ヌヌヌ……!」


 迷いの目をユイに向ける。


【 ユイ 】

「……俺の決めることじゃない。すべては、あんた次第だ」


 いつしか、影は消え、ユイはひとりに戻っていた。


【 カイリン 】

「ヌッ……ヌ、ヌウウウ……!」


 カイリンはしばし歯噛みしていたが、


【 カイリン 】

「クッ……アタシッ……アタシ、はっ……!」

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