◆◆◆◆ 8-28 工夫 ◆◆◆◆
ユイの分身を三体まで討ったヤクモだったが、最後のひとりの放った必殺の突きは、もはや回避不能の一撃。
南寇王、ここに散る――かと思われたが、
【 ヤクモ 】
「――うぬッ!」
ボキイッ!
【 背後のユイ 】
「な――」
ヤクモの胴に刺さった――と見えた匕首が、根元からヘシ折れていた。
呆気にとられた一瞬を、逃すことなく、
【 ヤクモ 】
「はッ!」
――ザシュウッ!
【 背後のユイ 】
「ぐッ……あッ……」
――ドサッ……
四人目のユイも、血しぶきをあげ、地に伏した。
【 カイリン 】
「……ッ!! く、朽縄ドノッ……!」
【 ゾダイ 】
「――――っ」
ほんの数瞬のあいだに、はや、決着はついていた。
【 ヤクモ 】
「……やるものだな」
匕首を突き立てられた脇腹をさすりつつ、顔をしかめるヤクモ。
無傷とはいかなかったようで、着衣にじわりと血がにじんでいる。
【 ゾダイ 】
「今のは……内丹っ……!?」
内丹とは、体内で陰陽の気を練ることで、肉体を活性化させる術である。
今の場合、ヤクモはとっさに肌を硬質化させることで、刃を受け止めた――というわけだった。
【 ヤクモ 】
「……さて、これくらいは序の口なのであろう? なあ、風雲忍侠よ」
【 カイリン 】
「…………ッ!?」
【 ユイ 】
「ご明察――」
【 カイリン 】
「ッ!? 朽縄ドノ!?」
気づけば地に転がっていた四体の骸は消え失せており、何食わぬ顔で無傷のユイがヤクモの背後に立っていた。
【 ユイ 】
「必殺の工夫を、こうもあっさりと返り討ちとは……いやはや、自信がなくなります」
【 ヤクモ 】
「ふむ……そうか。あらかじめ、この地になにやら仕掛けを施していたと見える」
【 ユイ 】
「そりゃあ、無為無策で勝てると思うほど、驕ってはおりませんので」
【 カイリン 】
「そ、そうだったのカッ……!?」
【 ユイ 】
「そういうことだ。おいおい、まさか、俺が何の策もなしに挑むと思ってたんじゃあるまいな?」
【 カイリン 】
「いや……うむ、思っていタッ……!」
【 ユイ 】
「…………」
【 ヤクモ 】
「それで? また、影をけしかけてくるつもりか?」
【 ユイ 】
「ええ、ですが……四人は少なすぎたようです」
【 ユイ 】
「ゆえに――」
【 ヤクモ 】
「――――ッ」
【 ユイ 】
「――ぬんッ!」
ボワァッ……
ユイが気合を込めるとともに、地面から霧が立ち昇る。
【 カイリン 】
「な……っ!?」
【 ヤクモ 】
「――――っ」
霧が晴れた、その後には――
【 ユイたち 】
『これなら――』
【 ユイたち 】
『――いい勝負には、なるかと』
ヤクモを取り囲んだユイたちが、一斉に身構える。
その数、ざっと五十人――
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