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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
254/421

◆◆◆◆ 8-23 死地 ◆◆◆◆

【 周囲の兵士 】

「あの老人っ……まさか、スイ・ヤクモかっ!?」


【 周囲の兵士 】

「まさか、こんなところにいるはずがっ……いやしかし、あの体つきっ……!?」


【 周囲の兵士 】

「大将首だっ……! いくら豪傑だろうと、一斉にかかればっ!」


 色めきだった兵士たちが、一斉に抜刀し、ヤクモらを取り囲む。

 悪所に遊びに来た輩とはいえ、戦地の兵には違いない。

 たちまち勲功に飢えた目を血走らせ、剣をきらめかせている。


【 ゾダイ 】

「……っ、大人たいじん……!」


【 ヤクモ 】

「む……」


 いささか厄介なことになった――と、ヤクモは思った。

 己ひとりならば、血路を開いて逃げ延びることは、そう難しくはないが……

 ゾダイを連れてとなると、これは簡単ではない。

 体術において決して凡人に劣るものではない彼女だが、この数が相手では分が悪いであろう。


【 ヤクモ 】

(これは――ちと、慢心がすぎたかな)


 歴史をひもとけば、名だたる英雄が、思わぬ形で非業の最期をとげている。

 むろん、戦場における死も多いが、ありえないほど大胆な……言い換えれば無防備な行動を取った末に、あっけなく命を落とす、ということも決して珍しくはない。


 今回の件も、ヤクモなりに熟慮の末、罠ではあるまいと判断して、敵地に乗り込んできたわけだが……


【 ヤクモ 】

(天運尽きたり――と、いうことか?)


 あるいはそうかもしれない、と老雄は考える。

 これまで、幾多の合戦に参加し、数えきれないほどの敵を殺し、また味方を死なせてきた。

 そのこと自体に、武人としてなんら恥じるところはない。


 破壊や殺人を楽しんだことは一度もなく、できうるかぎり、無用な殺生は控えてきた。

 とはいえ、だ。

 いずれは己にも順番が回って来るであろうことは、疑いようもなかった。


【 ヤクモ 】

(もとより、とこの上で穏やかに死ねるなどとは、思ってもいなかったが……)


 よもや、こんなところが己の死地になろうとは――

 と、思わず自嘲じちょうする。

 だが、これもまた運命というものかもしれない。


【 ヤクモ 】

(後のことは――まあ、若い者たちがどうにかするであろうよ)


 残される者たちのことを思うと、いささか気の毒ではあった。

 しかし、多少は早くなったが、いずれ来るべきときがきた、とも言える。

 あれこれ腹をくくってしまえば、ヤクモの決断は早い。


【 ヤクモ 】

「御坊、私がこやつらを引きつける。その間に、逃れられよ」


【 ゾダイ 】

「そんなっ……大人たいじんっ、どうか拙僧にはお構いなくっ!」


【 ヤクモ 】

「そうもいくまい」


 と、苦笑を向ける。


【 ヤクモ 】

女子おなごを見捨てて逃げたとあっては、このヤクモ、末代までの名折れゆえな」


【 ヤクモ 】

「――さて、そなたはどうする?」


【 カイリン 】

「ム、ムムム……!」


【 カイリン 】

「父の仇は、アタシが討ツ……! こんなトコロで死んでもらってハ、困ルッ!」


 と、ヤクモに背を向け、ちゅう兵たちと対峙するカイリン。


【 ヤクモ 】

「ほう、仇に手を貸すのか?」


【 カイリン 】

「仕方ナイ! 仇討ちは、後回しダッ……!」


 と、そこへ、


【 周囲の兵士たち 】

「うおおおッ……!」


 佩刀はいとうを抜いた兵たちが、一斉にヤクモめがけて殺到してくる。


【 周囲の兵士 】

「天下無双の弓使いだか知らないが、弓もないっ!」


【 周囲の兵士 】

「おおっ、もらったっ……!」


【 周囲の兵士 】

「一番手柄だっ!」


 老将軍の身をナマス斬りにせんと、刃を繰り出し、四方から斬りかかっていく――

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